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心理的安全性



ここ数年の間に「心理的安全性」というキーワードが大きく注目されるようになりました。心理的安全性に関する著作は、これまでにも多数出版されていますが、2021年に『恐れのない組織 -「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』(エイミー・C・エドモンドソン)が出版され、幅広い企業人へ広がったように思います。心理的安全性は、グーグルにおける研究によって広く知られるようになりましたが、もともとは『恐れのない組織』の著者であるハーバード・ビジネス・スクールのエドモンドソン教授が1999年に提唱したものです。

グーグルは、ラリー ペイジとサーゲイ ブリンによって1998年に設立され、その後急速に発展していきましたが、当初、創業者らは「テクノロジーの会社であるグーグルではエンジニアがのびのびと仕事ができる環境が一番重要であり、マネジャーは必要ない」と考えていました。このため2002年に「すべてのマネジャーを廃止する」という実験を行い、2008年には、マネジャーは重要な存在ではないことを証明しようと試みますが、結果は正反対で、マネジャーは極めて重要な存在だということわかってきました。そこで2009年に、マネジャーの役割や仕事に関する社内調査が実施されました。「プロジェクト・オキシジェン」と呼ばれるもので、マネージャーはオキシジェン(必要不可欠な酸素)であるという定義に基づく調査でした。このプロジェクトにより、マネジャーの言動がチームのパフォーマンスに大きく影響していること、いくつかの特性があることなどが確認されたことを踏まえ、2012年に「プロジェクト・アリストテレス」がスタートしました。そこでは「生産性の高いチームの特性」が明らかにされましたが、その特性とは、①チームの「心理的安全性」が高いこと ②チームに対する「信頼性」が高いこと ③チームの「構造」が明瞭であること ④チームの仕事に「意味」を見出していること ⑤チームの仕事が社会に対して「影響」をもたらすと考えていることの5つであり、この中で最も重要なのは「心理的安全性」であるという結論が導き出されたのです。

ちなみにプロジェクト・アリストテレスのネーミングは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉「全体は部分の総和に勝る」にちなんでいて、プロジェクトの研究者が「従業員は単独ではなくチームで働いた方が大きな成果を上げられる」という前提に立っていたことからこのネーミングになったとされています。

心理的安全性が高い組織の特徴は、「その時」に本音で語り合えること、リスクを恐れず発言できること、安心してリスクを取れること、反対意見を歓迎することなどが挙げられますが、グーグルでは心理的安全性を高めるために、マネジャーは次のようなことを意識して取り組んでいるそうです。①いい意図をもって集まっている仲間と信じること ②お互いの強みも弱みも認めること ③自分も間違うことを認めること ④聞く(聴く)こと ⑤肯定する、感謝すること(イエスから入る) ⑥相手の成長、成功を支援すること ⑦あなたの意見が聞きたいですと上司から言うこと ⑧失敗はない、学びだけだということ。

さて、上記のとおり、グーグルが導き出した心理的安全性の重要性は、生産性の高いチームとマネジャーの関係に基づいていますので、物語のなかでも書きましたが、「心理的安全性」と「安全」との関りについては直接言及されていません。しかし、これまでにCRМやコミュニケーション、チームステップスのところで述べたとおり、行き過ぎた権威勾配がなく、臆することなく質問や意見提起できる雰囲気は、ヒューマンエラーを防止する上で極めて重要ですから、心理的安全性が高いことと安全性が高いことには密接な相関関係があると言えます。

ところで、心理的安全性が高い職場=仲良しクラブのようなイメージを持たれるかもしれませんが、決してそうではありません。メンバーにとって心理的安全性が高いということは、マネジャーにとっては時には厳しい意見や要望がぶつけられるということです。実際グーグルでは毎週開催され、誰でも参加できるミーティングの質問タイムでは、メンバーからマネジャーに対してさまざまな質問や意見が飛び出し、マネジャーはそれに対して真摯に応えなければなりません。このため、CRМのところでご紹介した「権威主義型」のマネジャーの場合は、(このタイプではそもそも心理的安全性が高いチームが構成できないのですが)メンバーとの間で軋轢が生じます。グーグルでは、マネジャーは「管理する人」ではなく、マネジメントスタイルは「鵜飼い型」ではなくて「羊飼い型」が良いとされています。

一方で、メンバーの方も心理的安全性が高い職場だからと言って、マネジャーや同僚に対して、好き勝手に何を言っても良いというわけではありません。もしもそのようなメンバーがいたら、そのチームの心理的安全性は下がり、心は離散してしまいます。メンバーも上記のグーグルのマネジャーが実践していることと同様の価値観を持ち、互いにそれを尊重し合うことが大切であると言えます。心理的安全性はマネジャーひとりで高めることはできず、チーム全体で醸成していくものだと言えるでしょう。

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