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『玩プー』(新型コロナは人類に対する警鐘か?)


このホームページ(安全安心つなぐ研究舎)の関連図書・推薦図書のコーナーで『玩プー』という小説を紹介していますが、表紙にかわいいトイプードルの写真が使われていますので、ヒューマンエラー防止や産業安全、危機管理に関係する本なの?と疑問を持たれる方もおられると思います。この本の表紙には「人間のエゴイズムが巻き起こす間近にある危機を描く近未来小説」と紹介されていますので、実は危機管理をテーマにした本なのです。

新型コロナが、いよいよ明日5月8日から季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げられます。感染対策も緩和され、移動制限のない今回のゴールデンウイークは、海外、国内ともに多くの観光客で賑わいました。

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」だと宣言したのは日本時間の2020年1月31日未明のことでした。あれから丸3年以上が経過して、私たちはようやく平静を取り戻しつつあります。「新型コロナを乗り切った」という達成感のようなものを味わっている方もおられることと思います。

私たち人間は、大きな災禍・災厄を乗り越えたと思った時点で、「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の諺と同じで災禍・災厄で被った苦しみを忘れてしまいがちです。それは、人間が前向きに生きていくために必要なことでもあります。勿論、いまだに忘れることができない大きな悲しみを背負い続けている方や、感染に伴う後遺症に悩まされている方も多いと思いますが、自分や家族が感染しなかったり、感染しても軽症だったりした方、あるいは職を失うことなく安定した生活を続けることができた方たちは、新型コロナ発生初期の頃の恐怖を忘れてしまった方も多いと思います。幸い、医療従事者の皆さんの献身的な対応に支えられ、国民一人ひとりも手堅い感染防止対策を実践したことにより、被害は最小限に留めることができたと考えられます。

今回の新型コロナによる国内の死者数は7万4千5百人を超え、世界では692万人を超えたとされます。この数値が大きいと受け止めるか、小さいと受け止めるかは人それぞれだと思います。季節性インフルエンザでも、1シーズンの死者が2万人を超えることがありますから、3年少々で7万4千5百人は驚愕の数値ではないとも言えそうです。かつて、人類はウイルス感染症によって何回も大きな被害を受けてきました。その時代の背景や医療体制の違いもありますから、単純には比較できませんが、1918年のスペインインフルエンザ(スペイン風邪)の場合は約2千万人から5千万人が死亡したとされています。

かつて厚生労働省が新型インフルエンザ発生による日本での被害を試算したことがありますが、それは過去に発生した軽度から中度の弱毒型のケースを参考にしているものの、死者数は17万人から64万人と想定されました。一方で、私たち人類がこれまで恐れてきたのは、高病原性鳥インフルエンザで鳥から人への感染が確認されているH5N1の人-人感染によるパンデミックでした。この新型インフルエンザがパンデミックを起こした際の被害は、厚生労働省が試算した数値をはるかに超えるものになると考えられます。

さて、『玩プー』はこのH5N1が特殊な変異により人-人感染によるパンデミックを引き起こしたとき、特殊な能力を持った1匹のトイプードル(名前はプー)が治療薬の開発に貢献して人類を救うというSF小説ですが、物語の中では「BCP(事業継続計画)」の重要性についても触れています。今回の新型コロナウイルスは、初期の頃は強毒性と考えられていましたが、その後の変異により毒性は下がりましたので、各企業などのBCPは概ね機能したものと思います。しかし、もう少し強毒性の期間が長く続いたら、BCPは機能したでしょうか? 『玩プー』のあとがきには、次のような記述があります。「国は2020年までに大企業のBCP策定率を100%、中小企業は50%に到達させることを目標にしてきたが、実績は大幅に下回ったままだ。強毒性インフルエンザ等の感染症を対象としたBCPに至っては、実効性の高いものを策定している企業は極めて少ないだろう」。では、今回の新型コロナを踏まえて、強毒性に対応できるBCPへと見直しを行った企業はどれくらいあるでしょうか? 新型コロナは継続中だから見直しはこれから、と考えている企業もあるかもしれませんが、BCPの見直しについて議論が盛り上がっているという報道は見かけません。同じく、あとがきの最後にはこう記されています。「幸い、人類にとって脅威とされる高病原性鳥インフルエンザH5N1は、鳥から人への感染は確認されているものの、人から人への感染はギリギリのところで食い止められている。しかし、〝その日“が来るのは明日のことかもしれないし、未知のウイルスによる脅威もすぐ目の前に迫っているかもしれない、確実に分かっていることは、そこにプーはいないということだ」。

今、鳥インフルエンザによる卵不足が社会問題になっています。今回の新型コロナは私たち人類に対する神様からの警鐘なのかもしれません。

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