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ABC


『グッドジョブ』のところで、「グッドジョブというと、ファインプレイを想像しがちですが、多くの産業事故や災害が「ABC(当たり前のことを、ぼんやりしないで(バカにしないで)、ちゃんとやる」を実践していたら防ぐことができたと考えられますので、ABCの実践も間違いなくグッドジョブなのです」と述べさせていただきました。実際にヒューマンエラーによる事故が起きると「初歩的なミス」というような表現で報じられ、社会から批判を浴びることがよくありますが、ここでいう初歩的なミスというのは、言い換えれば、当たり前(A)のことができていなかったということです。今回はあらためて『ABC』について考えてみたいと思います。

物語のなかで「専一が新入社員だったころ、当時の上司はABCをしつこく指導していた」という記述があります。私が入社して間もないころだったと思いますが、『ABC』がもてはやされた時期があったように思います。私自身も繰り返し指導を受けた記憶があります。ところが、いつの間にかABCが声高に叫ばれることがなくなってしまったように思います。それはなぜでしょうか? 原因の一端は、ABCをしつこく指導されてきた私たちの世代が、次の世代へ伝えてこなかったということがあると思います。しかし、それにも理由がありそうです。責任を転嫁するつもりはありませんが、要因として次のようなことが考えられると思います。 それは、操作手順書などのマニュアル類や、集合研修などの教育訓練が整備、充実されたことと関連があるのではないかと思うのです。私が新入社員の頃は、操作手順書は十分に整備されておらず、機器のメンテナンスのために当該機器を隔離(アイソレーション)するために現場で操作した電源やバルブ等は、修理伝票のメモ欄に記載していました。このような状況だったからこそ、基本(しばらくは、当たり前のこと=基本として話しを進めます)が教え込まれ、その徹底が厳しく指導されたように思います。ところが、操作手順書の整備に伴って、基本は手順書のなかに書かれているハズであり、手順書どおりに操作すれば基本は徹底されるハズだとうことになっていったと考えられます。また、基本は集合研修で教えられているハズであり、OJTのなかで口うるさく指導する必要はないという風潮が生まれてしまったように思います。要するに『ABC』とは手順書を遵守すること、という単純な構図に置き換えられてしまったわけです。

ところが、手順書にはすべてのことが記載されているわけではありません。随分前のことですが、外国では「スイッチを押す」という手順があると「スイッチから手を離す」という手順が書かれていると聞いたことがあります。事実かどうか確認したことはありませんが、ベテランが作成した手順書には勿論「スイッチを押す」の後に「離す」という手順は書かれていませんし、このような「当たり前のこと」が省略されていることがよくあります。例えば、高温の蒸気が流れる配管のバルブを全開にした時は、全開から1/2回転ぐらいハンドルを戻します。これは、固着を防止するために行う操作ですが、手順書には「全開」としか記載されていないのが普通です。この例のようなことは、新入社員の時にしっかりと教育されるのですが、新入社員の頃の経験回数は人それぞれであり、十分に身についていないまま研修期間を終えてしまったり、数カ月間経験する機会がないということもあって、いつの間にかそれらの基本を失念してしまうこともあるでしょう。このようなことは、オフィスワークや私生活のなかでもよくあります。「そんなこと基本のキでしょ!」とか、「当たり前じゃない」などと言われたことは誰にでもあるでしょう。

また、トラブル処置の手順などは手順書がそのまま使えないこともあり、臨機応変な対応が求められるのですが、そのような時には焦ってしまって基本を失念したり省略してしまうことがあります。

このように「当たり前のこと」をちゃんとやることは、そんなに簡単なことではないのですが、そもそも「当たり前のこと」とは何でしょうか? 勿論、ベテランの当たり前は新入社員にとっては当たり前ではありません。またベテランであってもそれまでの経歴によって当たり前は違ってきます。私は、「当たり前のこと」と一括りにしていながら、実際には曖昧模糊としたまま放置していることに大きな問題があるように思います。曖昧模糊としているから、当たり前の重要性や価値がわからず、バカにしたり、ボンヤリして他ごとに意識が向いてしまうわけです。

また、「当たり前のこと」と「できて当たり前」はまた別のものです。「できて当たり前」には相応の熟練度が必要です。上述のように、経験回数が不足して十分に身についていないことは多々あります。

『ABC』の大切さを説くことも大切ですが、自分たちの職場、仕事において「当たり前のこと」とは何なのか、「当たり前にできる」ための十分な経験の機会が与えられているかを今一度考えなおしてみることも大切だと言えそうです。

さて、おかげさまで私は明日(4月3日)60歳の還暦を迎えます。今日の投稿が50代最後の投稿になります。これまで大過なく過ごしてこれたことに感謝し、これからはあらためて『ABC』を意識して、次の世代へ受け継ぐべき「当たり前のこと」を省略してこなかったかを振り返ってみたいと思います。

 
 
 

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