1月3日に投稿した新年のご挨拶のなかで、年末にJR東日本さんの「事故の歴史展示館」を見学させていただいたことを記載しました。今回は同展示館についてご紹介したいと思います。この見学は、安全研究会の発起人兼管理人で、JR東日本総合研修センター(白河)で講師を務めておられる西村さんのご厚意で開催されました。「事故の歴史展示館」は同センターの中に設置されており、同社グループの社員研修の場となっています。 まずは、同展示館の概要をご紹介したいのですが、私があれこれ書くよりも、次のサイトをご覧いただいた方が一目瞭然だと思います。 JR東日本「事故の歴史展示館」:読売新聞 「事故の歴史展示館」は2002年11月に設置され、「事故から学ぶ」という取り組みとして、再現模型や一部の実物、当時の新聞記事のパネルなどにより、過去の事故の概要や対策を学び、事故の悲惨さや社会的責任などを実感するとともに、事故や安全について考える場として活用されています。2018年10月には、複数の事故車両の実物展示を加えるなどの拡充が行われました。
鉄道の安全を確保するための設備・保安装置や仕組み、ルールは多くありますが、これらは過去に起きた事故の経験や反省に基づいて構築されてきたものです。しかし、それらの装置やルールについて「知識」として理解しているだけでは、それらを正しく使い続けることはできません。ヒューマンファクターとして、焦りや混乱などの外乱があると、装置の機能を無効化したり、ルールからの逸脱を招いてしまうからです。
このため、それらの装置やルールがどのような事故によって導入され、それを正しく運用し、遵守しないとどのような事故が起きてしまうのか、その結果、事故の被害者がどんなに苦しみ、会社は社会からどのように批判されるのか、そのようなことを「知識」だけではなく、心や身体全体で学び、実感することが大切なのです。 私たちも普段、自動車を運転していますが、これはちょっとしたエラーや違反行為で、数人から十数人を殺傷できるエネルギーを持っています。このため、事故を防ぐために道路交通法が定められていますが、私たちは運転免許取得時に「知識」として覚えるものの、その後運転経験が長くなると、同法の細かい規定は忘れてしまい、日常的に違反をしています。例えば、大幅なスピード違反や信号無視はしていないとしても、進路変更や右左折時の合図(ウインカー)を規定どおりに行っている人はほとんどいません。一時停止も曖昧なケースが多いのではないでしょうか?しかし、実際にはこれらの違反によって、多くの事故が起きているのです。
ドラレコを活用した安全教育の第一人者である上西一美氏は、実際に起きた事故のドラレコ映像を用いながら、そのような事故を防ぐために道交法ではどう定められているのかを分かりやすく解説しています。これについては別の機会にご紹介したいと思いますが、道交法の規定一つひとつには、ちゃんとした意味があるのです。JR東日本の社員たちが事故の歴史展示館で「実感」するのと同様に、ドラレコの映像はある種の疑似体験になるはずです。
話しが逸れてしまいましたが、自動車でさえ数人から十数人を簡単に殺傷できるエネルギーを持っているのですから、電車の場合は当然それ以上のエネルギーを持って動いています。しかし、運転士たちは普段そのエネルギーの大きさを重大なリスクとして意識しながら運転しているわけではないと思います。
例えば、京浜東北線の回送列車が工事車両と衝突して脱線転覆した車両の実物を見ると、その損傷状況から電車が持っているエネルギーの大きさを「実感」することができます。転覆した車両の内部を見ることで、もしもここにお客様が乗っていたら、どんなことになっていたかを容易に想像することもできるでしょう。この事故は、工事の責任者が工事車両の作業者に「ここまでは入れていいよ」と伝えたつもりが、作業者側が「入れていいよ」と伝えられたものと理解し、回送電車が通過していないにも関わらず工事車両を入れてしまったことで発生しました。
一方で、東日本大震災の津波で流された電車の実物は、自然のエネルギーに対しては電車がいかに脆いものであるかを「実感」することができます。 2005年12月に羽越本線で特急「いなほ号」が脱線し、5人が死亡、32人が重軽傷を負った事故の実物車両も展示されていますが、この事故は瞬間風速40mを超える局所的な突風によって発生したものですが、こんなにも重い車両を脱線させてしまう自然のエネルギーの恐ろしさを「実感」することができます。
ちなみにこの事故では運転士も重傷を負いましたが、運転士は車掌と2人で救助作業にあたり、消防隊が到着した後も「私より先にお客さまの救助をお願いします」と言って救助作業を続けたそうです。
火力発電所の発電設備にもさまざまな保護・保安装置があり、多様なルールが設定されています。私たちは、その使い方や運用方法を教えてきましたが、それは「知識」の教育、すなわちノウハウを教えるに留まり、そのルールができた背景や、ルールを遵守する態度や姿勢をしっかりと伝えてこなかったのではないか? 今回は、そのようなことを反省させられる見学でもありました。
この見学については、もう少しご紹介したいこともありますが、それは次の機会にさせていただきます。
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