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戦略的エラー対策



物語のなかで主人公の専一は、安全研究会の勉強会で岩橋から学んだ「戦略的エラー対策」を発電所で起きた災害の対策づくりに活用しようとします。「戦略的エラー対策」は河野龍太郎さん(前出)らが提唱したもので、エラー・レジスタントとエラー・トレラントの考え方を包含し、さらに具体的なステップと手順が示されています。概要は物語のなかに記載しましたが、この後、何回かのシリーズにして具体例を挙げながら順に考えていきたいと思います。

ステップはⅠ~Ⅳまでの4段階からなる「戦略」と、これを①~⑪に細分化した「戦術」で構成されています。

ステップⅠ:エラーが発生する可能性がある作業を減らす

 ①やめる(なくす)

ステップⅡ:作業でのエラーの確率を減らす

 ②できないようにする

 ③わかりやすくする

 ④やりやすくする

 ⑤知覚能力を持たせる

 ⑥認知・予測させる

 ⑦安全を優先させる

 ⑧できる能力を持たせる

ステップⅢ:多重のエラー検出策を用意する

 ⑨自分で気づかせる

 ⑩検出する

ステップⅣ:被害を最小とするために備える

 ⑪備える

それでは、順に具体的な例を挙げて考えていきましょう。

まずは、ステップⅠ「①やめる(なくす)」です。これは安全対策において最も重要な戦術です。ステップⅠは「エラーが発生する可能性がある作業を減らす」であり、作業を減らす(やめる/なくす)ことが基本ですが、作業における危険源を減らす(なくす)ことも含めてよいでしょう。ちなみに、トヨタ生産方式(TPS)のカイゼンでは、NHK(なくす、へらす、かえる)によるムダ取りが基礎的な手法になっています。TPSでは、作業を「働き」と「動き」に分けますが、働きは付加価値を生む瞬間であり、たとえばネジを締め付ける作業であれが、ガチっと締まった瞬間だけが「働き」であって、ネジを準備する、ネジを穴に入れる、ドライバー(工具)をはめる、工具を作動させる、工具を外すなどの付帯作業はすべて「動き」とされ、それらを徹底的に排除していくことを考えます。

まずは、何らかの作業があるとして、なんのためにその作業を行うのか、それがなんの(誰の)ためになるのか等、その必然性を徹底的に掘り下げて考えてみることが大切です。過去からやているから、いつもやっているからという理由で続けている作業も少なくないと思います。たとえば、火力発電所では現場の機器の運転状況や異常の有無を確認するための巡視を行いますが、私が入社した頃は3交替(1直、2直、3直)の各直ごとに巡視を行い、1つの直のなかでも終了間際(次直へ引き継ぐ前)に重要機器をもう一度見に行く「重点巡視」を行っていました。しかし、様々な機器の運転状態を中央制御室でモニターできるようになると、重点巡視は廃止されましたが、そもそもなぜ重点巡視が必要だったのでしょうか? 次直へ引き継いだ後、1時間ほどで次直の巡視が始まるわけですから、重点巡視はもともと不要だったのではないでしょうか? かつては機器の信頼性が低く異常が発生する頻度が高かったから、以前に何らかの異常が発生してその対策として必要になったから、あるいは次直の巡視で異常が見つけられるとメンツにかかわるから、などといった理由で行われ始めたのかもしれません。しかし、その後の状況や環境の変化によって見直しをしても良かったのに、漫然と続けてしまっていた可能性があります。

ちなみに、その後3交替勤務は2交替になり、巡視も2回に減ったのですが、大半の機器が1日1回見れば良いこととなり、また、巡視(機器の外観を横を通るか遠目で見ればよい)と点検(機器に触れるなどして細かく確認する)に分けることで、故障してもプラントの運転にただちに影響が出ない機器の点検は1週間に1回しか行わないなど、巡視の仕事は大幅に効率化されています。

さて、今年はとても暑さが厳しい夏でした。まだ残暑が続いています。熱中症災害も多数発生しましたが、酷暑下、炎天下で作業を行った結果、熱中症になってしまうという例が多くあります。そのような現場では、サマータイム制のようにして、朝の涼しい時間帯に作業を行うように作業時間をシフトしている例もあるでしょう。暑い環境下での作業をなくすという点では効果的ですが、そもそもこの時期にその作業を行う必要があるのかいう本質的なところを検証してみる必要があります。たとえば、炎天下で除草作業をしている場合、草が伸びて景観上好ましくないから除草しているとすれば、熱中症のリスクがかつてよりも大幅に高くなっている現状では、この時期の除草はやめた方が良いでしょう。また、秋から冬にかけて草が枯れて火災のリスクが高まるから夏の暑い時期に草刈りをするという理由も考えられますが、昨今の気象を考慮すると10月の涼しくなった頃に行っても良いかもしれません。

このように、作業を行っている理由や経緯、前提条件などを追究してみると、そもそもその作業を行う必然性が現在では存在していないという例は数多くあるものと思います。それは一連の作業すべてについて言えることですが、一連の作業を細かく分解してその一つひとつについて追究すると、なぜその手順が必要なのか判然としないことが多くあります。

また、人間は面倒だ、疲れるという作業は避けたいという心理が働きます。だから、早く終わらせたいという思いから手抜きや省略が発生し、これが災害を引き起こします。繰り返し作業で立ったりしゃがんだりを繰り返す、右へ行ったり左へ行ったりを繰り返すという動きは、まさしくTPSの「動き」であり、これは作業者の疲労を増大させ、それによるエラーから災害に至るリスクを高めます。また、複雑な動線上で複数の作業者が動くと、衝突のリスクが高まります。このようなケースについては、作業の手順をかえる、作業の場所や加工機械のレイアウトをかえることで大幅にカイゼンできることがあります。

次回は、危険源をなくすという対策について考えてみたいと思います。

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