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コミュニケーション


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これまで、安全文化について4回にわたって話題にしてきましたが、安全文化についてはまだまだ触れたいことが多くあり、特に「安全文化の8軸モデル」についてはちゃんと扱うべきだと思いますが、それはまた次の機会へ回すとして、ここで一旦次のテーマとして、「コミュニケーション」を話題にしたいと思います。

私たち安全研究会が、海文堂さんから最初に出版させていただいた『命を支える現場力-安全・安心のために実務者ができること』は、「コミュニケーション」を主題としてまとめた本ですが、冒頭の「読者のみなさんへ」では、つぎのように記載しました。「私たちは、社会で起きているさまざまな事故、そして自分たちが経験してきた事故から学ぶなかで、コミュニケーションの失敗によって引き起こされている事故が多いのではないか、あるいは事故に至るまでの「事象の連鎖」の途中で、適切なコミュニケーションがとられていたら事故を防ぐことができていたケースが多いのではないかと考えました」。実際にみなさんも「あの時ひと言念押ししておけばよかった」と後悔した経験が何度もあるのではないでしょうか? 念押しは、注意、確認、アドバイスといった言葉に置き換えることもできます。また「伝えたつもりだったのに、伝わっていなかった」「相手は、わかりましたと返事したのに、指示したこととは違うことをした」という経験も少なからずあると思います。

物語のなかでも、コミュニケーションに関わる記述はたくさん散りばめてあります。CRМ、権威勾配、チームステップス、確認会話などのキーワードはすべてコミュニケーションに関わるものですし、心理的安全性も良好なコミュニケーションの下でしか成立しません。「丸の上に棒を1本描く」というシーンが出てきますが、会話をする二人がいて、双方が頭の中で別々のことをイメージしていたら、相手には正しく伝わりません。

コミュニケーションは私生活でも会社生活でも欠かすことができないものです。社会で起きている人が関わった事故の大半、またはそのほとんどにおいて、不適切なコミュニケーションが何らかの形で影響を与えているものと考えられます。

かつてのヒューマンエラー対策は個人にフォーカスし、個人への教育訓練や、矯正色の濃い指導が一般的でしたが、機械によるヒューマンエラー対策や自動化の導入などによって個人のエラーによる問題の発生が少なくなると、チーム、そして組織としてのエラーによる問題が目立つようになってきました。勿論、そうなる前からチームや組織によるエラーは存在していたはずですが、個人のエラーの方が多かったことや、当時は事故の直接的原因となるエラーをした個人の責任を問う風潮がありました(今でも大して変わらないかもしれません)ので、注目されるのは個人のエラーの方でした。しかし、個人のエラーをゼロにすることは不可能ですから、チームとしてエラーを防ごうとする考え方が広がり始めました。

ところが、チームによるエラー防止効果が発揮される場面もあれば、チームだからこそ招いてしまうエラーもあります。チームで仕事をするからには、そこにコミュニケーションが必要となります。その結果、不適切、不十分なコミュニケーションによってエラーが起きてしまうわけです。例えば、物語のなかでは、後に専一と結婚する看護師の雪子が、患者への投薬注射でエラーをしてしまうシーンが出てきますが、雪子一人だったらエラーをしなかったはずなのに、先輩看護師と共同作業を行ったことでエラーをしてしまいました。

すでに「CRМ」のところでご紹介したとおり、航空界で1970年代からコクピットにおけるチームワークやコミュニケーションに着目しており、コミュニケーションをはじめとするノンテクニカルスキルを高め、発揮するための訓練プログラムが開発されました。同様の取り組みは、航空界ではコクピットの中(パイロット)からCAを含んだクルーへ、そして整備士やグランドスタッフへと広がり、やがて船舶、鉄道、原子力、医療、化学などへ広がっていきました。

さまざまな産業の現場でコミュニケーションに起因するトラブルが発生しており、職場では「コミュニケーションを良くしよう」という類のスローガンが氾濫していますが、結局のところ、その方法論には言及せず、「良くする」は個人任せになっている職場が多いのではないでしょうか。コミュニケーションはとても重要かつ難しいものであり、その習得や向上を個人任せにしているのは、いかがなものでしょう? 結局、航空をはじめ、事故が起きると人が死ぬ、社会的な問題になる産業ではCRМのような訓練プログラムが導入されているのに、そうではない産業では個人任せになっているという構図は、「墓石安全」の社会的風土が変わらずに残っていると言わざるを得ないのではないでしょうか。

 
 
 

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