物語の中でラジオ体操の話題が出てきます。主人公の専一が安全担当になり、朝のラジオ体操を熱心に行った結果、新ヒヤリハット活用制度の導入にあたって抵抗勢力と考えられていた保全部長が、専一のよきフォロワーになったというストーリーでした。専一はラジオ体操を始めた理由として、すべった、転んだ、躓いたという災害の防止に効果があると知ったこと、体操をすることで気分がリセットできることなどを挙げています。
私が入社配属された発電所では、毎朝全員でラジオ体操をする(オマケに縄跳びまで)取り組みをしていましたが、その後の職場ではその活動が積極的ではないところもあり、私もいつしかラジオ体操をしなくなっていました。ラジオ体操の音楽は流れても、誰も体操しないという職場もありました。ラジオ体操は始業時刻の8時30分になると放送されますので、体操は任意ではないという意見もありましたが、それぞれの職場の長に委ねられていたように思います。特に、各自にパソコンが貸与されるようになると、オフィスの場合、朝礼前はパソコンでメールやその他の情報をチェックする人が増えました。
その後、私がある発電所の業務課長(安全衛生も所管している課)になったとき、私は再びラジオ体操を始めることにしました。その理由の1つは、東京・立川労働基準監督署の取り組みを知ったからです。同監督署は、朝礼時にラジオ体操を実施している建設業で「転倒」「転落」「腰痛」などの行動災害が少ないことにヒントを得て、第三次産業における同種災害を防止するキャンペーンを2013年から始め、注目を集めていました。私は、災害防止に効果が期待できるのであれば、実践すべきだと考えたのです。しかし、課のメンバーや他の課の人たちへは強制しませんでした。課長がラジオ体操を始めると、職場へどのように伝播していくのか、あるいは何も起こらないのか、試してみようと思ったからです。小さな小さな社会実験だったと言えるかもしれません。その結果は、保全部長の物語に少し投影してみました。
さて、同監督署はラジオ体操をススメる理由として、次の7つを挙げていました。①建設業では腰痛が少ない ②ストレッチ効果がある ③みんなが動きを知っている ④3分間でできる ⑤腰と体幹に良い運動が多数 ⑥健康のために作られた体操である ⑦ストレス解消にも効果的。しかし、私はこれら以外にも始業時に職場でラジオ体操を行うメリットがあると考えています。
まずは、ストレス解消とまでは言わないまでも、専一が感じたように、気分がリセットできるという効果があります。次に、職場の仲間たちのメンタル面まで含めた健康状態を把握することができるという点です。いつもは元気に体操をしているメンバーの動きが小さめだったり緩慢なときなどは、何か問題を抱えているはずです。昨今では、コロナ禍でマスクを着けているため、表情もハッキリしませんし、息の匂いもマスクされてしまいますので、体調の把握がしづらくなっています。その点、ラジオ体操はマスクを着けていても的確に把握することができます。もちろん、ラジオ体操以外でも、ひと言挨拶などで発言をさせることなどで把握することもできますが、短時間で終わる発言は誤魔化すこともできてしまいますし、メンバーが多い部署では全員に発言を求めることは現実的ではありません。
一方で、建設業やプラントのメンテナンスを行う現場などでは、ラジオ体操が実践されている例は多いと考えられます。ラジオ体操によってウオーミングアップを行うだけではなく、それに加えてさまざまな工夫によって体調の把握を行っています。例えば、低い平均台を渡らせる、二人一組(バディ)になってストレッチを行うといった取り組みが行われています。さらに、始業前の血圧測定を行っているケース、各作業現場に分かれてからのTBМ-KYで再度確認するケースなどもあります。
一歩間違えば大きな災害に至るリスクを有する建設業ならではの取り組みのようでもありますが、立川労働基準監督者が第三次産業に目を向けたとおり、すべった、転んだ、躓いたという災害は、建設現場以外でも、勿論、オフィスでも起きています。ラジオ体操については、強制すべきか否か、強制できるか否かで意見が分かれることもありますが、私はオフィスを含めたすべての仕事場で実践されることをおススメしたいと考えています。
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