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チームステップス





チームステップス(T℮am STEPPS)は、Team Strategies to Enhance Performance and Patient Safety の略で、「医療の成果と患者の安全を高めるためにチームで取り組む戦略と方法」と訳されています。米国国防総省や航空業界などの事故対策をもとに作成されたプログラムということであり、航空のCRМも開発のベースになっているものと考えられます。米国ではチームステップスを臨床現場で取り入れることで医療事故の減少に成果を上げているとされています。米国での取り組みは、米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)のホームページで動画も使いながら詳しく紹介されているとのことです。

日本では、東京慈恵会医科大学のチームが米国プロビデンス病院においてAHRQのテキストに基づいてチームステップスの研修を受講し、院内での普及に取り組みましたが、当初は米国で学んできたそのままを導入しようとしたものの、文化や診療体系の違い、日本人に馴染みにくいアルファベット略語の使用による使い勝手の悪さなどから、日本版のチームステップスとして再構築しました。詳しくは『チームステップス日本版 医療安全 チームで取り組むヒューマンエラー対策』(メジカルビュー社)などを参照いただきたいと思います。

物語のなかでは、チームステップスの一部として「エスバー(SBAR)」「2チャレンジルール」「カス(CUS)」を紹介させていただきました。エスバーは緊急時において、相手に迅速に緊急性を伝え、適切な処置をしてもらうための緊急時コミュニケーション手法です。S(状況)、B(背景)、A(考察)、R(提案)の略語で構成されており、この順で報告・説明することで、相手に的確に伝達することができます。例えば、患者が苦しんでいる(状況)、2日前に手術を受けたが昨日から時々辛そうだった(背景)、〇〇を起こしているかもしれない(考察)、速やかに〇〇検査をすべきと思う(提案)という流れです。

緊急時におけるコミュニケーションでは、相手に対し緊急性が伝わらない(相手はそんなに急ぐ必要はないと思った)、重大化の可能性が伝わらない(相手はそんなひどいことになるとは思わなかった)ことから、とりあえず対処方法を指示したが的外れだったというエラーが起きやすいものです。「何を言ってるかよくわからないが、焦っているようだから特別なことが起きているのだろう」といったことしか伝わらないのです。

行政トップが休暇中や出張中に重大な事案が発生し、報告を受けたにもかかわらずスグに戻らなったとして非難を受ける例が散見されますが、その原因は行政トップの危機意識が足りないというだけではなく、報告を上げる側が、S、B、A、Rをしっかりと伝えられなかったということも考えられます。例えば土砂災害であれば、土砂災害が発生したが被害状況は不明、ただし昨日まで記録的な雨が降っていた、多くの旅館がある地域であり連休で大勢の宿泊者がいると思われる、被害は大きく拡大する可能性があるので速やかに登庁してほしいということが伝われば、正しい判断をしやすくなります。

2チャレンジルールは、重要な安全義務違反を感じたり発見したときに、とりあえず活動を中断させるために繰り返し(最低2回)アピールするものです。このルールにおいては、相手は必ず対応しなくてはいけないという決まりが付属します。アピールを受けた側は、無視をしてはいけないのです。また、ポイントとしては、相手の過ちを指摘するのではなく、相手が気づいてない情報を提供し、正しい判断を促すというスタンスです。

カスは、2チャレンジルールを実行しても相手から満足した反応が得られないときに、心配だ、不安だ、問題があるということを直接表現するものです。この場合も「ちょっと待ってください」という言葉が出たときには、必ず手を止めて議論することという決まりが付属します。

チームステップスには、このほかにも、ハンドオフ(引き継ぎ)、チェックバック(再確認)、コールアウト(大声発声)などがあります。また、チームステップスは、アサーティブコミュニケーション(相手の立場を尊重しながら自分の主張を理解してもらうための対話)が前提となっており、「人の言うことをよく聞き、言うべきことを言う」が大原則になっています。そして、物語のなかでも記載したとおり、一部の担当者へ押し付けるのではなく、医療機関全体が、まず現状に対する危機感を認識し、総意として取り組みをはじめることが重要とされています。

東京慈恵会医科大学でチームステップス導入の中心的立場であった当時の副院長は、「チームステップスはチームで取り組む意識改革です」と述べています。

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