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戦略的エラー対策(その2)



前回は戦略的エラー対策のステップⅠ「エラーが発生する可能性がある作業を減らす」の「①やめる(なくす)」について、主に「作業を減らす(やめる、なくす)」について触れました。今回は「危険源をなくす」について考えてみたいと思います。労働災害は危険源(リスクアセスメントの用語では危険性や有害性)と人の関りによって発生します。ヒューマンエラーであれば、エラーを招きやすい状況(m-SHELモデルの中心のLを囲むSHELとの関りの不具合)を危険源と考えることができます。不安全状態は危険源であり、不安全行動を引き起こす存在にもなります。滑った、躓いた、転んだという災害であれば、滑りやすい床、わずかな段差やすき間、すり減った靴底などが代表的な例となります。段差やすき間をなくす、床面に落ちている油を掃除ずる、歩廊を横断している障害物をなくすなどの対策が取られます。

また、エネルギーも危険源になります。電気、圧力、熱、位置(高さ)、運動、化学などですが、人がこれらのエネルギーと無防備に接触すると災害が発生することになります。一般的には、これらのエネルギーについては、それらをゼロ(電気であれば停電)の状態にすることで危険源をなくしてから作業を行いますが、高所作業は人間や物が位置エネルギーを持つわけですから、その場所そのものが危険源とみなすことができ、この危険源をなくすことはできません。しかしこの場合は、高所における組立作業であれば、地面で組み立ててから吊り上げることで、高所での作業を必要最小限にすることができます。これは、前回の「作業を減らす(なくす/やめる)」に該当します(「④やりやすくする」の側面もあります)が、見方を変えると危険源をなくした(減らした)と理解することもできます。このように考えると「作業をなくす」と「危険源をなくす」は同一または密接な関連を持つ場合があることになりそうです。

トヨタの工場では、低動力の部品搬送装置を使っている例がありますが、この場合は搬送中の部品に人がぶつかっても、挟まってもケガをすることはありません。従来であれば、搬送機械や搬送中の物にぶつかったり、挟まれたりして災害が発生していましたので、これらの機械や搬送ルートに人が入れないような囲いを付ける等により、「②できないようにする」対策が取られていましたが、過剰な動力を取り除いた(なくした)結果、危険源をなくすことができています。このような対策は「本質完全化」と表現されることもあります。

今年の夏はとても暑い日が多く、熱中症も多く発生しました。熱中症の場合、直射日光や高温多湿の環境が危険源になりますが、この場合は、日陰や空調の効いた部屋で作業をする、早朝の涼しい時間帯に作業時間をシフトすることで、危険源をなくす(減らす)と、炎天下での作業をなくすという両面の対策を施すことができます。

さて、明治大学の向殿先生は、ライオン(危険源)と人の関係を図示して安全を説明されています。ライオンと人間の間を隔てるものが何もない状態は危険です。このため、ライオンを取り除くことができれば安全になるのですが、それができなければライオンを檻の中に入れることで対処します。しかし、この状態は、ライオン側からすると人を襲うことができませんが、人が誤って檻の中へ手を入れることは防げませんから、危険源をなくしたと言うより、危険源を減らしたと考えるべきでしょう(勿論、檻が完全ではないというリスクもあります)。また、人が手を入れることができる状態ですから、戦略的エラー対策の「②できないようにする」とも異なります。

さて、危険源が誰の目にもすぐにわかる状態であれば、それに対処することは容易です。しかし、現実に起きる災害の多くの例では、災害が起きるまで危険源に気が付いていなかったか、その危険の大きさを軽視して放置していたというケースが多いと考えられます。戦略的エラー対策の「②できないようにする」以降の対策は、そのどれもが危険源を認知していなければ有効な対策とはなりませんから、危険源を見極めること、その能力を高めることはきわめて重要だということをあらためて理解することができます。

今回は雑多なお話しになってしまいました。次回からは「②できないようにする」の話題に進めていきたいと思います。

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