「異業種交流安全研究会のなりたち」でご紹介したとおり、この研究会の初期のメンバーは「CRM」によってつながることができました。
1950年代、民間航空が発展を始めた頃の航空機事故は、100万フライトあたり10件を超える全損事故が発生していました。当時の事故原因のほとんどは航空機の構造、飛行場の施設、整備技術等が未発達であったことに起因しており、技術の進歩により、1960年代以降事故は急速に減少して、1970年代後半からはほぼ横ばいの状況となりました。しかし、事故率が変わらないということは、この先、運航される航空機の増加に伴って、事故件数が増加するのではないかと危惧されました。
1970年代にNASA(米国航空宇宙局)が事故原因について調査した結果、事故の75%にヒューマンエラーが関与していること、そして乗員の誰かが運航中に利用できたはずのリソースを有効に使っていなかったケースが多いことがわかりました。また、NASAはクルー20組を対象にシミュレーターを用いて実験を行い、どのような時にどのようなエラーをするか調査しました。その結果、次のような特徴が確認されました。
① ワークロードが多い時、新しい状況に遭遇した時にエラーが発生する。
② 年齢や経験にはあまり関係ない。
③ 良いチームワークが発揮されているクルーにはエラーが少ない。
このような状況を踏まえ、米国ユナイテッド航空(UAL)は、「人間のミスを未然に防ぎ、あるいは起こったミスからの影響を早期に遮断するため、クルー(チーム)を最大限に利用する」という考え方に基づき、CRM(Cockpit Resource Management)訓練を開発しました。この時、同社が開発にあたって採用したのは、グリッド理論(The Managerial Grid Model)でした。
グリッド理論は、1960年代に米国テキサス大学教授で経営コンサルタントのブレイク(R.R.Blake)とムートン(J.S.Mouton)によって提唱されたリーダーシップ行動論の一つです。リーダーシップの行動スタイルを「業績への関心度」(横軸)と「人間(仲間)への関心度」(縦軸)の2つの軸で捉え、それぞれにどの程度関心を持っているのかを1~9段階(9×9の格子)で表現します。
業績に対する関心が高く、人間に対する関心が低い〈9・1型〉は、権威主義型で、このタイプは「俺についてこい。俺の言うとおりにやればうまくいく」と考えています。対極の〈1・9型〉は、カントリークラブ型(仲良し型)で、「人間関係さえ良ければ仕事も自然にうまくいく」と考えています。業績にも人間にも関心が高い〈9・9型〉は、チーム・マネジメント型あるいは理想型などと呼ばれ、その対極にありどちらへの関心も低い〈1・1型〉は無関心型と呼ばれます。ちなみに、中央に位置する〈5・5型〉は常識型と呼ばれます。
CRMにおける訓練(研修)内容については、別の回でご紹介しますが、UALの場合、5,000人のCRM受講者に対し、セミナーの初めに「自分はどのスタイルか?」というアンケートを行ったところ、80%が〈9・9型〉と回答したが、最終日にもう一度アンケートを行ったところ、〈9・9型〉と回答したのは26%に減っていたといいます。
自分は理想的なマネジメントを行っていると自負していても、それは独りよがりであって、周囲は別の見方をしていることが多いということだと言えそうです。
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