かつて、パイロットに必要とされる能力は、身体の健康を除けば、「知識」と「操縦技術」の2つだと考えられていました。
しかし、CRM導入に至る経緯を踏まえ、その重要性が注目されるようになると、パイロットには「知識」「操縦技術」に加え、「態度・意識」「CRMスキル」の4つの要素が必要だと考えられるようになりました。
それでは、CRMスキルとはどのようなものなのでしょうか?
2003年頃、航空宇宙技術研究所(現:宇宙航空研究開発機構/JAXA)が行ったCRMスキル行動指標に関する研究では、CRMスキルとその要素を次のように整理しました。
1.コミュニケーション/(1)情報伝達と確認(2ウエイコミュニケーション) (2)ブリーフィング (3)安全への主張(アサーション)
2.意思決定/(1)解決策の選択 (2)決定の実行 (3)決定・行動のレビュー
3.チーム形成・維持(チームビルディング&メンテナンス)/(1)チーム活動に適した雰囲気・環境づくり (2)業務の主体的遂行 (3)意思の相違の解決
4.ワークロードマネジメント/(1)プランニング (2)優先順位付け (3)タスクの配分
5.状況認識マネジメント(シチュエーショナル アウェアネス)/(1)状況の把握・認識の共有 (2)警戒 (3)予測 (4)問題点の分析
同所の研究では、CRMスキルの各要素ごとに、行動指標を示しています。ここではその詳細は省略しますが、一部についてご紹介すると、次のとおり具体的なものとなっています。
コミュニケーションの「情報の伝達と確認」については、①情報は省略せずに正確に伝える、②相手に正しく伝わっているか確認する、③標準的な用語を用いる ④大きな声でハッキリと、適切な速さで伝える、⑤タイミングよく伝える、⑥ボディランゲージは誤解されないように使う、⑦相手の話しを積極的に聴く。
「安全への主張」については、①疑問に思ったことは躊躇せずに口に出す、②自分の意見、考えを率直に伝える、③危険であると感じた時は自己主張の程度を強める、④意思の表明を受けた時は、相手の疑問、意見、アドバイス、質問に積極的に応える。
ちなみに、日本エアシステム(当時)では、次のとおり、CRMスキル5つについて、それぞれ3つの要素(エレメント)で構成していました。
1.COMMUNICATION(コミュニケ―ション)/(1)Communications(意思疎通のテクニック)、(2)Assertion/Inquiry(安全への主張・質問)、(3)Briefimgs(意見交換と認識の共有の場)
2.DECISION MAKING(意思決定)/(1)Use of Resources(リソースの有効活用)、(2)Decision(責任ある意思決定)、(3)Critique(決定の振り返り)
3.TEAM BUILDING(チームビルディング)/(1)Leadership(適切な権威勾配の維持と各メンバーのリーダーシップの発揮)、(2)Group Climate(チームの雰囲気づくり)、(3)Conflict Resolution(対決を解決するために)
4.SITUATIONAL AWARENESS(状況認識)/(1)Monitor and Evaluate(状況把握のための観察・評価)、(2)Anticipation(エラーと危険の予測)、(3)Sharing of Awareness(プランと認識の共有)
5.WORKLOAD MANAGEMENT(ワークロードマネジメント)/(1)Prioritize(優先順位付け)、(2)Distribute(業務の割り振り)、(3)Stress Management(個人とチームのストレス管理)
今日では、ノンテクニカルスキルがさまざまな産業で注目され、その教育、習得に向けた取り組みが行われていますが、上記のCRMスキルはノンテクニカルスキルに通じるものと理解して良いでしょう。
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