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昆虫絶滅

執筆者の写真: 代表 榎本敬二代表 榎本敬二

今回は産業安全や防災・減災とは異なる話題です。しかし、人類の安全・安心にとって、とても重要であり、深刻に受け止めなければならないことです。

先日(といっても数カ月も前のこと)、ある方から紹介されて『昆虫絶滅』(オリヴァー・ミルマン著)を読みました。昆虫がいなくなると、何か大きな問題が起きるの? 蚊がいなくなるのは賛成!、ゴキブリが現れてギャーギャー騒がぐこともなくなる! と好意的に受け止める方もおられるでしょう。しかし、昆虫が絶滅すると、やがて人類いや、地球上の多くの生物が絶滅することになるのです。そして、今その危機が顕在化しつつあります。 では、具体的にはどのようなことが起きるのでしょうか? この本のプロローグには、昆虫が絶滅した後に起きるであろうことがシミュレーションされています。 まず、地球上に存在する鳥類の約半数が飢えて絶滅し、その死骸がいたるところに積み重なりはじめます。バクテリアや菌類が死骸を分解する能力は低く(時間がかかる)、多くは昆虫が分解する役割を果たしているからです。動物の糞便も同様に分解が進まないまま異臭を放ち続けます。次に人類に不可欠な食料の供給が崩壊します。世界の農作物の1/3以上は、その受粉を昆虫に頼っているからです。小麦、米、トウモロコシなどの主食作物は風によって受粉するので破局的な飢餓は免れますが、栄養状態は悪化し、それに伴う病気がまん延します。昆虫は糞便のみならず植物も分解して土壌にリサイクルする役割を担っていますから、やがて土壌の栄養も失われ、植物が成長できなくなります。その先のことは容易に想像できますね。本の中には「昆虫は私たちの食物を増やし、私たちの周りにいる他の生物の食物となり、汚い排泄物を取り除き、迷惑な害虫を駆除している。さらに重要なのは、地球を包んで人類全体を支えている地表15センチの土壌を肥やしていることだ」と書かれています。そして、ある生物学者は、耕作農業と生態系が崩壊すると、人類はわずか数カ月で絶滅しかけないと予測しているといいます。

では、昆虫絶滅の危機はどのように顕在化しつつあるのでしょうか。皆さんも子供のころを思い出すと、昆虫が少なくなったと思いつくことがいろいろあると思います。私と同年代の方は、車を運転するようになって40年程が過ぎていますが、40年前は夜に車を運転するとフロントガラスやバンパーにたくさんの昆虫が衝突して辟易したはずです。最近はどうでしょうか? そもそも昆虫は地球に暮らす全生物種の3/4を占めるとされており、名前が付いている昆虫は100万種に及び、その数はまだ発見されていない種や名前が付けられていない種に比べるとほんの一部にしか過ぎないといいます。しかも、シロアリだけでも地球上のすべての鳥の重さを超えるのだそうです。国連が2019年に発表した報告では、今後数十年のうちに動物界全体で100万種が絶滅の危機に直面し、その半数が昆虫だということです。昆虫は人類にとって極めて重要な存在ですが、その生息状況については長らく限定的かつ単発的な調査結果しかなかったため、危機的な状況を迎えつつあることが認知されるようになったのは、ほんの10年ほど前のことです。2014年に入手可能な調査をまとめた統計結果が発表され、これが大きな警鐘となりました。それは、国際自然保護連合(IUCN)の記録されている無脊椎動物の1/3が減少傾向にあり、個体数の減少は過去40年間に世界全体で45%に及んだという指摘でした。

では、昆虫が減り続けている原因は何でしょうか? 地球温暖化でしょ? と発想しがちですが、確かに気候変動も原因のひとつですが、ほかに大きな原因が2つあります。1つは昆虫の生息地の減少です。農地、宅地、工業用地の開発に伴う減少に加え、多くの大規模農地では単一作物が栽培されることから、そこには限られた昆虫しか生息できないという状況が発生します。2つ目は農薬使用の増大です。農薬使用については、害虫以外の昆虫も巻き添えにすることから、かえって害虫発生を助長しているという指摘もあります。

さて、昆虫絶滅の危機、そしてその先に続く人類絶滅の危機が顕在化しつつある今、それを防ぐための手立てはあるのでしょうか? 次回のその点について書いてみたいと思います。

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