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m-SHELモデル



物語の中で主人公の専一は、安全研究会の顧問をしている岩橋キャプテンからヒューマンファクターズについて学び、ヒューマンファクターズを理解する上で有益な「m-SHELモデル」(エムシェルモデル)に関心を持ちます。「m-SHELモデル」は前回少し触れたとおり、その原点はマンチェスター大学のエドワーズ教授が1972年に発表しています。エドワーズは航空界におけるさまざまな事故やインシデントの研究に基づいて、「S」「H」「E」「L」の4要素で構成するモデルを考案したのですが、そのモデル図は、環境「E」の枠の中で、その環境の影響を受けながら人「L」、ハードウエア「H」、ソフトウエア「S」が相互に作用しあうことを示したものでした。これに手を加え、人「L」を中心に置いた積み木型(タイル型)の「SHELモデル」が1975年にKLМオランダ航空の機長で心理学者でもあるホーキンズによって提唱されました。ホーキンズは国際航空運送協会の会議においてこのモデルを提唱したのですが、同年、国際民間航空機関ICAOは同協会からの提案を受けて、この「SHELモデル」を正式なヒューマンファクターモデルとして採用しました。

この「SHELモデル」ではマネジメントがどこに入るのかが不明確であったことから、1994年にマネジメントの「m」を加えた「m-SHELモデル」を考案したのが東京電力でヒューマンファクターズの研究を行っていた河野龍太郎さんです。河野さんは元航空管制官ですが、管制業務中に航空機を衝突コースに誘導してしまうエラーを経験したことがきっかけとなり、ヒューマンファクターに関心を持つようになりました。そして、管制官を続けながら大学で心理学を学び、東京電力へ転職して原子力分野のヒューマンファクターズ研究に携わるようになりました。河野さんと私の出会いについては、すでに「異業種交流安全研究会」のところで紹介していますが、私をこの世界へ招いていただいたのも河野さんです。河野さんは東京電力の頃から医療分野におけるヒューマンエラー防止にも大きく関わるようになり、その後自治医科大学へ移られて医療分野でも活躍されましたが、退職後は安全推進研究所を立ち上げられ、幅広い分野で産業安全の推進に取り組まれています。ところで、マネジメントの「m」が大文字ではなく小文字になっている理由について、河野さんはこう述べています。「マネジメントが強く表面に出ると、Lのやる気を阻害し、人間のパフォーマンスが下がることが多いと考えたから」。河野さんは医療分野に関わられるようになってから、患者の「P」を加えた「P-mSHELLモデル」を2002年に考案されていますが、「SHELモデル」を基にしたさまざまなモデルが提案されており、日本ヒューマンファクター研究所は1998年に「М-SHELモデル」を提唱しています。「М-SHELモデル」の「М」はあえて大文字とし、Мの周りはギザギザの星形で表現されていますが、これはほかの要素とすべて密接にかかわらなければならないということを意味しています。「m-SHELモデル」の「m」が控えめであるのとは対照的です。

マネジメントが果たす役割と影響が重要かつ大きいものであることは間違いありませんが、そのスタイル(例えば前面に押し出るか否か)は、その組織によって異なってよいと思います。例えば、新しい組織は創業者のリーダーシップが先行する例が多いと思いますが、組織が成熟、成長するに従って、トップマネジメントのリーダーシップ(ヘッドシップ)はスタイルが変化します。また、平時と非常時でも異なるでしょう。大切なことは、マネジメントは「S」「H」「E」「L」の各要素とそれぞれの関連性に常に気を配り、それらを良好な状態に保つようにきめ細かくメンテナンスすることであり、必要に応じて「M」として前面に出ることもあれば、「m」として一歩下がって下支えに回ることもあるということだと思います。ただしそのタイミングは難しく、「M」となるべきときに「m」のまま傍観者となったり、「m」となるべきときに「M」として過度なリーダーシップを発揮すると悪い結果を招いてしまうことになりそうです。

「SHELモデル」が意図していることや、それぞれのアルファベットの意味や物語のなかで説明してありますので、ここでは省略しますが、それぞれの構成要素(Lとの関係)については次回以降補足してまいりたいと思います。

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