東日本大震災から14年 -防災庁に期待すること-
- 代表 榎本敬二
- 3月16日
- 読了時間: 4分
東日本大震災から14年を迎えました。今もまだ2万7千人以上の方が避難生活を続けておられ、復興はまだその途にあります。あらためて犠牲になられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。大船渡の山林火災が被災地を襲いましたが、テレビの取材に「サイレンの音で震災を思い出す」という趣旨の応え方をされていた女性がいましたが、震災のトラウマを抱えたまま苦しんでいる方も多いと思います。
1月17日には、阪神淡路大震災から30年の節目を迎えましたが、1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件の犯人は、阪神淡路大震災の被災者であり、その震災における体験がこの犯罪に大きく影響していると聞いたことがあります。当時と異なり、その後はメンタル面のケアにも目が向けられ、ずいぶん充実しているものの、東日本大震災が同じようなかたちで悲しい事件の発生につながらないことを願いたいと思います。
さて、現在「防災庁」の創設に向けて準備が進められています。1月30日には、「防災庁設置準備アドバイザー会議」の1回目の会合が開かれ、2月17日には2回目が開催されました。同アドバイザー会議の主査は、私が参加させていただいている「産業防災研究会」の座長をされている福和伸夫先生が務められています。
会議資料は、内閣官房のホームページから見ることができますので、ご覧いただきたいと思います。
第1回会合の資料を見ると、冒頭には ・平時から不断に万全の備えを行う「本気の事前防災」に徹底的に取り組む。
・災害発生時の司令塔機能を抜本的に強化する。
を2本柱とし、重点的に取り組む事項として、
・被災者が安心して過ごせる避難生活環境・備蓄体制の抜本的改善。
・災害専門ボランティア等の育成強化、防災教育の充実など官民連携による災害対応力・地域対応力の強化。
・情報連携・共有強化などの防災DXのさらなる推進。
が掲げられています。
いずれも大変重要なことばかりです。
官民連携の具体的な方策は今後の検討事項だと思いますが、企業についてはボランティア的な立場ではなく、新たな防災ビジネスの創出による日本の活性化という発想も持って、積極的に取り組んでいくことが必要だと思います。 ところで、私は「抜本的」とか「本気」というキーワードに政府の強い意志を感じる一方、進む方向性を間違えると大きな混乱を招くような気がしています。
例えば、「防災教育の充実」が挙げられていますが、本気で抜本的に防災教育を見直すとき、どのようなことに気を付ける必要があるのでしょうか?
同アドバイザー会議には、「釜石の奇跡」の片田先生も参加されていますが、片田先生は釜石の子供たちに「率先避難」を教えつつ、中学生には「あなたたちは助けられる側ではなく、助ける側だ」ということも指導されていました。しかし、3.11で強い揺れに襲われた瞬間、片田先生は「助けなくてもいいか、逃げてくれ」と強く願ったといいます。
本気の防災教育として、中学生を対象に「あなたは助ける側だ」ということを繰り返し教え込むことにより、中学生が犠牲になるケースも増えるのではないだろうか? そんな恐れが私の頭をよぎりました。 東日本大震災と、次に起きるであろう広域大災害の南海トラフ巨大地震には、被害想定の大きさの違いだけではない、大きな課題があります。現在の日本は超高齢化社会に入っていますが、南海トラフ巨大地震の発生確率が大きく高まる20数年後は、東日本大震災と違って、助けられる側の高齢者が圧倒的に多くなるのです。
多数の被災者を伴う災害現場では、医療のトリアージが行われますが、南海トラフ地震では救助のトリアージが必要になるかもしれません。すなわち、若い人たちの救助を優先し、高齢者の救助はあきらめるという状況になってもおかしくありません。しかし、私たちはその状況を受け入れる準備ができているでしょうか? また、南海トラフ地震に向けて、そのようなトリアージを是とする社会的コンセンサスを築くことは可能でしょうか?
防災庁の設置を順調に進める一方で、南海トラフ地震ではどのような状況が発生するのかを国民一人ひとりがリアルにイメージできるようにして、その上で必要な事前防災を検討していく必要があると思います。
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