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執筆者の写真代表 榎本敬二

昆虫絶滅‐2 インアクション・プラン



前回は『昆虫絶滅』(オリヴァー・ミルマン著)について紹介し、「昆虫絶滅の危機、そしてその先に続く人類絶滅の危機が顕在化しつつある今、それを防ぐための手立てはあるのでしょうか?」という問いかけで終わらせていただきました。今回は、その手立てについてご紹介したいと思います。

この本では、一般的な「アクション・プラン」(行動計画)の逆を行く「インアクション・プラン」を提唱しています。すなわち、人工的なビオトープを都会に作ったり、農場に手を加えて昆虫が棲みやすい環境を作り出すというのではなく、「特定のことをやめる」という考え方です。手を抜くことによって自然を加工するのことをやめ、自然に息を吹き返すチャンスを与えるというものです。特定のことは、例えば特定の化学物質の使用をやめるとか、畑の一部を放置する、芝を刈る回数を減らすというものです。

これに成功した一例として、この本ではイングランド南東部にある農場「クネップ」が紹介されています。この農場のオーナーは長年にわたり大型の農業機械や農薬に費用をかけてきましたが、この地方の粘土と石灰岩からなる土壌に悩まされ続けてきました。そして大規模な工業化農場を経営する競合他社の存在により、この農場の負債は増大していったのです。

2000年、オーナーは農機具と乳牛を売却し、農場の一部を耕作地から原野に復元しました(この時点ではアクション・プランと言えるでしょう)。すると昆虫が戻り、野鳥が戻り始めました。400頭の牛を含む草食動物を放牧し、これらには抗生物質も化学物質も与えず、その糞は糞虫によって土に戻され豊かな土壌に変わります。こうしてこの農場では有機飼育された肉の販売やキャンプ場の設置などにより収益を上げることができるようになりました。この農場では、耕作地を原野に戻すというアクションを取りましたが、自然の回復力に委ねること(インアクション)によって少し時間はかかりますが自ずと原野に戻ります。

「クネップ」は大規模農場の例ですが、もっと小さい農地でも、畑の一部や境界、使われていない土地を昆虫に明け渡すことによって、受粉を担う昆虫が戻るだけではなく害虫を減らすことができ、結果的に除草剤や殺虫剤、化学肥料に投じる費用を削減することができるだけではなく、有機野菜で収益を上げることもできるのです。 さて、昨日(5月25日)、「食・環境・農薬 ~沈黙の春62年度の現実」というイベントに参加してきました。『沈黙の春』(レイチェル・カールソン著)は1962年に出版された本で、DDTをはじめとする殺虫剤や農薬などの化学物質の危険性を訴えた作品ですが、このタイトルは、虫や鳥たちいなくなりその羽音や鳴き声が聞こえなくなり音のない春という状況を示しています。この本の出版から62年が過ぎました。さて、現状はどうなっているのでしょう? この分野で日本は世界のお手本になっているのでしょうか? 次の機会には、このイベントで何が語られたのかをご紹介したいと思います。

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