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戦略的エラー対策(その4)



次は「④やりやすくする」です。人間には肉体的、精神的負担をなるべく避けたいという心理が働きます。横断禁止の道路で、横断歩道が100メートル先にしかないとき、車が走っていないから渡っちゃたという経験はありませんか? 手抜きや近道などの行為の背景には、やりづらい、面倒くさい、疲れるなどの要因があります。もちろんそれらの行為はルール違反だと知っていますが、問題が起きなければそのルールは次から軽く見てしまいます。また、人間の能力と特性のところでご紹介したとおり、疲労も避けることができませんから、疲労することでエラーの発生確率が増加してしまいます。このほか、窮屈な姿勢、高温多湿の環境など肉体的に負担が大きい状況や騒音や振動が精神的に影響を与える状況でもエラーの発生確率が高まります。これらのエラーは、事故や災害の発生のみならず品質不良の原因にもなります。また、肉体的に負担が大きい作業を続けることで、腰痛をはじめとする様々な職業病を招来するリスクもあります。逆に、楽な姿勢で肉体的負担が小さく、心的ストレスが少ない環境であれば生産性も高まります。ですから「やりやすくする」は、安全、品質、生産性に直結する重要な対策でもあります。

私がいつも使うたびに素晴らしい発案だ!と感心するのは、トイレットペーパーのホルダーです。初期のものは芯棒が伸縮するようになっていましたから、交換する際は、それを縮めて外したりはめたりしなければならず、両手が必要でしたし、はまったと思ったら少しズレていてトイレットペーパーがロールごと落ちてしまうというエラーを経験しました。今の物は芯棒が2分割されて上に折れ曲がるタイプですから、空芯を外すときも、新しいロール入れるときも、片手で下から上へ動かすだけで確実に交換できます。キッチンや洗面の蛇口は、以前はハンドルを回すタイプでしたから、開け閉めが面倒でしたし、お湯側と水側二つのハンドルで温度を調整する必要がありました。このため、こまめに止めることができませんでしたが、その後、1つのレバーで開け閉めや温度調節ができるようになり(最近はセンサー式のものもありますね)、節水にも効果を発揮しています。

安全、品質面で繰り返しトラブルが起きている作業、生産効率(1個当たりの生産時間)がばらつく作業、新人が苦労している作業などには、やりにくい要素が含まれている可能性が高いと考えられますので、その原因を探り、やりやすくすることが大切です。

続いて「⑤知覚する能力を持たせる」です。これは、エラーが起きやすい環境であっても、エラーをしない人間を育てる対策のひとつです。ヒューマンエラーは人間をとりまく様々な状況、環境、そして人間の精神的、身体的、生理的状況等によって誘発されるものですから、それらの状況を正しく知覚することが必要です。その反対の典型的な例に飲酒があります。酔うことによって知覚能力が低下し、周囲の危険が感じられなくなったり、自分の能力を正しく把握できなくなって、側から見ても危ない行為をします。騒音があって聞こえづらい、暗くて見えずらい、疲れている、寝不足だ、イライラしている、このようなヒューマンエラーを招きやすい状況を正しく知覚する能力を高めることで、エラーを減らすことができます。

この知覚能力を持たせる対策の先にあるのが「⑥認知・予測させる」対策です。周囲の状況を知覚できても、その先に何が起きるのかを予測することができなかればエラーを減らす確率を高めることはできません。すなわち、状況を知覚し、その状況に伴っている危険を認知し、どのようなことが起きるのかを予測することが大切なのです。しかし、この認知や予測能力は先天性のものではありません。多くの場合、知識、体験、訓練によって備わるものです。過去に起きた事象の知識、自らの体験、そして危険予知トレーニング(KYT)などの訓練です。火力発電所では現場機器の巡視点検を行いますが、ベテランの中には現場へ出た瞬間に何かが違うという違和感を持つことができる人がいます。かすかな音の違い、空気の質感や肌感覚、臭いの違いなどですが、これは日ごろからの訓練によって備わった知覚能力だと言えると思います。その違和感にこだわり、機器の異常を発見するのですが、その際には過去に起きた不具合事例などの知識を総動員し、どんな異常が起きつつあるのかを予測して異常個所を解明していきます。


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