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執筆者の写真代表 榎本敬二

戦略的エラー対策(その3)


今回からは、戦略的エラー対策のステップⅡ「作業でのエラーの確率を減らす」に話しを進めていきます。まずは「②できないようにする」についてですが、少しペースアップするため(私がもっと頻繁にアップすれば良いことですが)、複数の戦術を話題にしていくことにします。

「できないようにする」対策は、以前に「インターロック」について触れましたが、私たちの身の回りに数多く採用されています。たとえば車はシフトレバーがP(パーキング)の位置にあり、ブレーキを踏まないとエンジンがかかりません。車が動く状態においてはエンジンがかけられないようになっているのです。同様に、電子レンジや洗濯機は扉が開いた状態では動作しません。また、駅のホームに上がる階段の場合、ホーム上の壁になる箇所の上部は平ではなく山形になっていますが、この上に荷物が置ける状態だと荷物が落下して階段下の人にぶつかることから、置けないようにしてあるのです。背が低いコインロッカーの上が斜めになっているのは、荷物の置き忘れを防ぐため、そこに置けないようにしているのです。エスカレータは上の階に近づくと天井とエスカレータの間に三角形の板がぶら下がっていますが、これはエスカレータから顔を出せないようにしてあるのです。かつてこの板がない頃、子供がエスカレータから顔を出して下を覗き込んでいて、天井との間に頭が挟まって亡くなる痛ましい事故がありました。

火力発電所の制御盤のスイッチには、アクリル製のカバーがたくさん使われていました。通常では操作しないスイッチにこのカバーを付けることで誤操作を防止するためです。普段使わないモンキータラップには、登り口に板が取り付けられ、鍵が掛けられています。また、組立、接続という行為を行う作業では、正しい部品、方向でしか組付けたり、接続ができないようになっている場合が多くあります。

このように「できないようにする」対策は効果的でありたくさん採用されていますので、身の回りの使われ方を確認してみてはいかがでしょうか。一方で、過去には、非常階段なのに外から鍵が掛けられていて逃げ出すことができなかったという事例もありますので、どのような使われ方をするのかをよく考えて対策することも必要です。

次は「③わかりやすくする」対策です。これも、私たちの身の回りでたくさん用いられています。「①やめる(なくす)」ができない場合にこの対策が取られることが多いと考えられます。例えば、通路上のすき間や段差、頭をぶつけるような突起物等は、本来であれば「なくす」べきですが、これが容易にできないとき、そのすき間や段差、突起物等を明るい色で塗装することで、わかりやすくするというケースです。発電所では「トラテープ」という黄色と黒が交互になっているテープがよく用いられていました。このほかにも、薄暗い階段は本来ならば薄暗い状態をなくすべきですが、照明が設置できない場合には、階段の最終ステップを明るい色で塗装する対策が取られていました。発電所の現場では、グレーチングという格子状の鋼材が階段や床面に使われているのですが、同じ色をしているため階段なのか床なのかがわかりづらいのです。以前に人間の限界や特性について話題にした際に紹介しましたが、人間の眼は老化によって薄暗いところでの視力が大きく低下しますので、若い人にはよく見えていても、高齢者には見えづらいというケースがありますから要注意です。

逆にわかりにくい例として、オシャレなデザインにこだわったトイレで、男女がわかりづらい場合があります。同じ扉で、男女の区分けを小さな絵や外国語で男女を表示してあると、近づいてよく見ないとわかりません。また、扉の色に一般的な男女を表現する青やピンクを用いると、混乱を招くことがあります。ピンクの扉に男性のマークが付けてあるようなケースです。これとは対照的に、男女の扉が隣り合っているような場合には、それ全体を色分けし、更に大きな図で男女を表示してあると、とてもわかりやすいですね。トイレネタでは、このほかにドライブインなどで個室トイレが並んでいるとき、入口でどの個室が空いているのかひと目でわかるように工夫している例もあります。

また、アフォーダンスといって、対象物をどう扱うのかをその形状などでわかりやすくする例があります。扉にドアノブがなくて指をかける溝があれば、それはスライド扉であることを示しています。また、通常取っ手が付けられている箇所に板が付けてあれば、それは押して開けるのだとすぐわかります。

ある建設現場で、作業員が墜落防止の安全帯を近くのパイプに掛けたところ、実はそれは仮設エレベータの一部で、エレベータが上昇したことでその作業員が吊り上げられてしまい亡くなるという災害が発生しました。エレベータの一部なのか、動かない柱などの構造物なのかがわかりづらかったものと思われます。

単独ヒューマンエラーの多くは、「わかりづらい」ものによって引き起こされています。わかりづらい、混乱を招くような表示、手順書、名称版、目盛りなどです。ヒヤリハットの背景にはそのような「わかりづらい」が関与しているケースが多いと考えられますので、ヒヤリハット情報を活用して、事故や災害が起きる前に「わかりづらい」を「わかりやすい」に改善することが大切ですね。

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