ここからは戦略的エラー対策のステップⅢ「多重のエラー検出策を用意する」に入ります。これまではエラーを減らす、エラーが起きないようにする対策でしたが、ここからはエラーが起きても速やかに対処し、エラーの拡大や大きな事故への発展を防止する対策となります。これまでが「エラー・レジスタント・アプローチ」であり、ここからが「エラー・トレラント・アプローチ」ということになります。まずは「⑨自分で気づかせる」についてです。指差確認呼称はエラー防止の対策でもありますが、エラーに自分で気づく対策にもなります。ただし、これはエラーに気がついてスグに修正できる場面に限定されます。『ヒューマンエラーを防ぐ技術』(河野龍太郎さん)でも紹介されていますが、全身が映る大きな鏡は自分の服装をチェックするために設置されています。火力発電所でも、事務所や中央制御室の出口に設置されていました。また、工事やメンテナンス作業を行う作業員については、作業開始前に各自で血圧を測定したり、朝礼終了後に低い平均台を渡ってから現場へ向かうことをしている例があります。血圧が高かったり、平均台上でふらつくようなことがあれば、体調が良くないことに気がつくことができます。実際には、血圧が高い、熱っぽい、二日酔い気味という症状には何となく気がついていることが多いと考えられますが、それを明確に意識せずに作業に就いてしまうということがありますので、この明確に気づかせるということが大切です。この夏は猛暑が続き、各地で熱中症災害が発生しましたが、初期症状に気がついて休憩を取り、体温を下げて水分を補給すれば回復するのですが、気がつくのが遅れる、もう少しで終わるからとムリをするケースが多いようです。このため、腕時計型の深部体温計で警報を発する熱中症対策グッズの活用や、WBGT計でその日の熱中症危険度を確認するなども、自分で気づかせる対策として導入されています。
しかし、いずれにしても人間には思い込みや勘違いなどの特性がありますし、上述のとおり無理をしてしまうことも避けがたいことから、「自分で気づく」ということは限定的なものであると考えておいた方が良さそうです。
次は、「⑩検出する」です。監視・制御システムでは、プラントの様々な箇所の温度や圧力、振動などを計測しており、異常な数値になれば警報が発せられますし、弁の開度、系統を構成する弁の開閉状態もシステムで自動監視されており、異常な開度や系統構成になると警報が発せられます。このような計装システムによる検出以外でも、カイゼンや4Sの取り組みとして、異常がひと目でわかるような工夫が様々な職場で取り入れられています。例えば、工具掛けボードに工具の形を描いておけば、何が戻されていないかがひと目でわかります。航空機の整備場や発電所の定期点検の現場などでは、使用した工具を確実に回収しなければなりませんので、近年ではそれぞれの工具にICチップを取り付けて、作業終了時に工具がすべてそろっていることを電子的に確認する方法も採用されています。ひと目でわかる工夫は、オフィスでも採用されており、例えばずらりと並んだファイルの背表紙に斜めの線を引いておけば、どのファイルが持ち出されているかひと目でわかりますし、戻すときも位置を間違えることはありません。「自分で気づかせる」対策として紹介した血圧測定や平均台は、そこに管理者が加わることで「検出する」対策にもなります。始業前のラジオ体操は、体をほぐしたり、気分をリフレッシュする効果が期待され、滑った、転んだという災害の防止ににもつながるとされていますが、管理者がラジオ体操の様子を見ていると、「今日は元気がない」ということに気がつき、作業者の体調不良という異常を検出することができます。一人の管理者が大勢の作業者を診ることはできませんので、バディー制度として二人一組のペアでお互いに相手の体調不良や精神的な不調を検出する取り組みをしている例もあります。
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