今回は戦略的エラー対策ステップⅡ「作業でのエラーの確率を減らす」の最後の戦術となる「⑥できる能力を持たせる」についてです。どんな業種、会社でも人財育成に力を注いでいますし、一方では人財育成が課題になっています。医師や航空機のパイロットなど国家資格を取得しなければその職業に就けない仕事もあれば、特に資格を必要としない職業もありますが、いずれにしても必要な能力を備えていなければ仕事はできません。またパイロットのように資格を持っていても、操縦する機種が変わるごとに、あるいは定期的に訓練を受けなければならない例もあります。私が勤務していた火力発電の場合は、発電員はボイラーやタービンのタイプ(ボイラであればドラム型、貫流型等、タービンであれば蒸気タービン単体、蒸気タービンとガスタービンを組み合わせたコンバインド)によって社内ライセンス制度があり、中級(起動停止操作ができる)と上級(トラブル処置ができる)にレベル分けされていました。そして、それぞれのライセンスを取得するためには机上研修とペーパーテスト(知識検定)、シミュレータ用いた研修と技能検定を受けなければなりませんでした。物語のなかの最初のシーンは、主人公の専一が上級の技能検定を受けていました。
また、品質管理の分野では「力量」を管理する仕組みが取り入れられています。火力発電所のライセンス制度(メンテナンス側にもあります)もその例になりますが、加工、組立を行う工場などでは、誰がどの作業に従事できるのかを星取表で表示したり、ヘルメットにシールを張ったり、帽子の色を変えるなどして分かるようにしている例があります。
さて、人財育成の分野において、ずいぶん前から、そして今でも話題になるのが、ノウ・ハウ教育とノウ・ホワイ教育についてです。「どのように」という手順を教えるノウ・ハウ教育は仕事を覚える上で基礎の部分をなすものですが、異常発生時や想定外の事象が発生した際には、定められた手順(ノウ・ハウ教育で学んだこと)だけでは異常の原因が特定できなかったり、その処置を適切に行えません。そこで、理論や理屈、仕組みや構造、過去の異常事象などのより深い知識を習得しておく必要がありますが、これがノウ・ホワイ(なぜ)教育となります。しかし、人財不足で新人や新規配属者をなるべく早く実務に就かせたい状況では、ノウ・ハウ教育のみ行って現場へ投入するようなことが行われます。ノウ・ハウを習得しておれば、やがて一人前に仕事ができるようになりますので、周囲も自分自身もそれで問題ない(自分は十分な能力を備えている)と勘違いしてしまうことになります。また、ノウ・ホワイの知識や多方面にわたるため、一定の期間内にすべてを教えることはできません。ですから、現場で実務を行いながら、適宜Off-JT(集合教育など)で教育したり、自らが自己啓発で学べる環境を整えることが重要だと考えられます。
私は、カイゼンやリスクアセスメントの取り組みが、実はこのノウ・ホワイ教育につながっていて、この取り組みを通じてノウ・ホワイの知識を深めていくことが良い方法だと考えています。それは、カイゼンもリスクアセスメントも、理論や理屈、仕組みや構造、過去の異常事象などの知識が十分にないと正しくできないからです。ノウ・ホワイ教育のためにOffーJTを行いますといって現場を離れさせようとすると、「忙しい」を理由に後ろ向きの姿勢になりがちですが、カイゼンやリスクアセスメントはすでに現場で取り組まれているわけですから、その実効性を高めることでノウ・ホワイ教育ができるのが一番効率的で効果的であると思うのです。
もう1点、力量管理にはモチベーションアップの効果が期待できます。特に技能職系の現場では、自分がより高度な仕事に就くことができると自他ともに認めることで、自信がつくとともに、責任も意識するようになり、さらに上のレベルを追求しよう、後輩を指導しようという意欲が高まります。マイスター制度のような認定制度を導入している企業が多くありますが、このような仕組みをうまく運用していくことも大切なことだと思います。
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