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執筆者の写真代表 榎本敬二

川崎汽船研修所「事故事例研修」-1(Ⅰ船長との出会い)





まずは、川崎汽船研修所のI船長との出会いについてご紹介したいと思います。8年ほど前のことになりますが、当時私が課長として勤務していた発電所でヒューマンエラーが発生しました。その再発防止対策について検討しているなかで、当該制御室の責任者のひとり、Nさんが「今回のトラブルの背景にはコミュニケーションがうまくできていなかった問題があると思う。以前、燃料(火力発電燃料のLNG)の仕事をしていた時、LNG船のブリッジ(操舵室)に入ったことが何度もあるが、ブリッジのコミュニケーションはとても良かった。調べてみたら、BRM(ブリッジ・リソース・マネジメント)という取り組みがあるようだ。以前の仕事の伝手で、BRMについて教えてもらうことができると思う」と、BRMを再発防止に取り入れる提案をしてきました。

私は、CRMについて勉強していましたので、船舶の分野でBRMが導入されていることは知っていましたが、その具体的内容については話しを聞いたことがありませんでしたので、Nさんの提案に賛同しました。

数日後、Nさんの伝手で数名の商船関係者との会合の場がセットされました。そこでBRMについてレクチャーするため、わざわざ東京から来ていただいたのが川崎汽船のI船長でした。当時、I船長は船長資格を維持されていましたが、運航の実務からは離れ、BRMの開発、川崎汽船研修所長の任に当たられた後、同研修所の講師としてBRMの実施、後進の指導に注力されていました。

I船長からBRMについて学んだその日、アフター5で懇親会が開催されました。そこでI船長と酒を酌み交わしつつ、BRMについて、安全についてなど、楽しく歓談することができ、意気投合しました。

この縁がきっかけとなり、後日、同研修所で稼働したばかりの新しい操船シミュレーターを見学させていただくばかりか、実際に行われているBRM訓練も間近で見学させていただく機会をいただきました。実際の受講生(現役の船長や航海士など)に対して行われる訓練のすべて、すなわち訓練前のブリーフィング、訓練、デブリーフィングまで見学させていただくことができたのです。

その後、BRM訓練は安全研究会のメンバーなども見学させていただき、安全研究会の集まりにI船長をはじめ同研修所のスタッフが参加していただけるようになりました。

I船長には、私が企画委員を務める産業安全対策シンポジウムの講師として登壇いただいたり、原子力安全推進協会のリスクマネジメント専門委員会の委員に一緒になっていただいたりするなど、ほぼ一方的にお世話になっています。いつかは少しでも恩返しをしなければ、と思いつつ、いまだに何もお返しすることができておらず、申し訳なく思っています。

さて、まずはBRMについてご紹介したいところですが、それは次の機会として、まずは同研修所が独自に行われている「事故事例研修」について、次回ご紹介したいと思います。

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