top of page

安全文化‐3 安全文化診断システムの続き


前回は、『現場実務者の安全マネジメント』(異業種交流安全研究会で海文堂さんから出版させていただいた2冊目の本)で紹介している電力中央研究所が開発した安全診断システムと、そのシステムを元に開発・改良され、現在でも使われている診断システムを次の機会にご紹介したいと締めくくりました。今回は、これらのシステムについてご紹介しますが、その前に、前回登場した「SCAT」について、少し補足をしたいと思います。「SCAT」はセーフティ・カルチャー・アセスメント・ツールの略で、ポイントは組織の構成を管理者(部課長)-責任者(係長、チームリーダー)-作業者(担当者)の3階層に分け、それぞれの階層に対して相互評価する点にあります。例えば、管理者であれば、自分たち管理者層に対する評価に加え、部下である責任者層、作業者層についても評価します。具体的には、質問紙調査により、10の分野ごとに数項目ずつ、計数十項目に対して点数付けを行います。この結果は、各項目ごとの得点は勿論のこと、各分野の得点を示したレーダーチャートのほか、総合評価を4象限マトリクス上にプロットした図によって示されます。4象限マトリクスは、横軸に評価項目の得点(右に行くほど高い)を、縦軸に相互評価によって測定された3階層間のギャップ値(上に行くほどギャップ値が小さい=良好)を取ることで、第一象限は「得点が大きく、ギャップが小さい」エリアとなり、ここをGE型と呼びます。GE型は理想型ですが、自己満足型である可能性があります。同様に得点は低いけれどギャップ値は小さい第2象限はG℮型と呼び、これは改善期待型ですが、沈滞型である可能性があります。以下、第3象限はℊ℮型と呼び、要改善型または組織未成熟型、第4象限はℊE型で交流期待型または相互不信型となります。それぞれの象限には、「理想型」または「自己満足型」のように相反する2つの型があてはまることになりますから、そのどちらであるかは質問紙調査では判定できませんので、ヒアリング調査によって確認することが行われます。多くの調査結果に基づけば、ひとつの組織の中では、得点は管理者>責任者>作業者の順に小さくなるのが一般的です。ですから、その得点に大きな開きがある場合(管理者が高得点で作業者が低得点の場合)や、階層間のギャップ値が大きい場合は、要注意です。この評価結果に基づいて安全性向上プログラムを策定する必要がありますが、これらの詳細については、『現場実務者の安全マネジメント』を参照いただきたいと思います。

それでは次に、電力中央研究所が開発した安全診断システムについてご紹介します。このシステムは同研究所のヒューマンファクター研究センターが2001年から原子力や火力発電所をはじめ、化学、食品、繊維、鉄鋼などさまざまな産業の事業所250箇所以上を対象に、「個人の意識・行動」「職場の安全管理」「職場の組織風土」の3分野について20項目、設問数120のアンケート調査を行い、そのデータを統計的に処理したデータベースをもとに開発された、事業所の安全レベルを診断するシステムです。この診断結果は、20項目それぞれの得点がレーダーチャートで示され、強みや弱みを把握するすることができますが、横軸に総合的な安全指標(得点に基づく安全レベルで右へ行くほど高い)を、縦軸に組織の雰囲気(上へ行くほど上意下達的で下へ行くほど協調的)に取ったマトリクス上にマッピングすることで、事業所の安全レベルと組織の雰囲気のタイプを把握することができます。なお、組織の雰囲気のタイプは業種などによって異なるため、一概に協調的であることが望ましいというわけではありません。このマッピングは、産業ごとに分布傾向が異なり、自社が属する業界の中で、自分の事業所がどのあたりに位置づけられるのかを知ることができます。

組織、職場の安全文化や安全のレベル、雰囲気はこのような診断システムで把握することができますが、そのレベルの高低は得点の数値で示されるものの、それが優れているか、劣っているかは自分の組織や職場の診断結果からだけでは判定できません。あくまで相互評価であり、他の組織や職場との比較で優劣や強み、弱みを把握し、改善すべきポイントを明確にする必要があります。また、この調査は傾向を把握するため、あるいは改善策の効果や有効性を確認するため、一定期間をおいて再度調査する場合が多いのですが、その間隔が短い場合(例えば1年)は、前回の自分の回答を覚えていて、「前回より良くしよう」という意思(明確な、あるいは漠然と)が働くケースがあるため要注意です。

なお、電力中央研究所の安全診断システムは、同所の高野研一氏が中心となって開発しましたが、同氏は電力中央研究所を退職後、慶応義塾大学へ移ってこの分野の研究を続けられ、「安全文化の8軸モデル」を提唱するとともに、安全診断システムの充実に取り組まれました。「安全文化の8軸モデル」に基づく安全文化診断システムは、現在さまざまな分野で活用されており、この研究は、高野氏の後を継いで、東瀬先生(現新潟大学)が続けられています。

さて、電力中央研究所のヒューマンファクター研究センターは、電力業界に限らず、産業界全体を対象としたヒューマンファクター研修を実施するなど、多くの産業からその存在が認められ、日本のヒューマンファクター研究もリードしてきましたが、その後、同センターが廃止されたことは誠に残念でなりません。

閲覧数:9回0件のコメント

最新記事

すべて表示

A2ーBCP(その2)

前回は中部国際空港のBCP(A2ーBCP)を話題にさせていただきました。同空港のA2ーBCPの概要はホームページで公開されていますが、今回はこれを元にその内容の一部を確認してみたいと思います。(産業防災研究会で議論されたことは非公開となっていますので、その内容には触れません) まず、同空港で想定されている自然災害は、南海トラフ地震を想定した地震動が「震度6弱」で、津波の浸水被害は空港島周辺部で1m

A2ーBCP

先日の「産業防災研究会」のテーマの1つは「A2ーBCP」でした。A2ーBCPとは「Advanced」(先進的)な「Airport」(空港)のBCP(Business Continuity Plan :事業継続計画)のことであり、平成30年(2018年)9月に日本へ上陸した台風21号(死者14名)によって、関西国際空港が一時孤立する事案が発生したことを踏まえて各空港で策定が進みました。 同台風21号

Comments


bottom of page