物語のなかで、主人公の専一は、対象ユニット間違いが2回も続いたことから、安全担当としての自信を失ってしまいます。ヒヤリハットはグッドジョブだとするSafety-Ⅱの考え方に基づいた新ヒヤリハット活用制度が軌道に乗り出したばかりの頃でした。新しい安全施策や活動を取り入れたからといって、すぐに安全成績が良くなることはありませんし、効果が現れる前に事故や災害が起きてしまうことだってあります。しかし専一は、新ヒヤリハット活用制度がSafety-Ⅱの構築に役立っているのだろうか? これまでにやってきたことに意味があったのだろうか? やるべきことはほかにもっとあったのではないか? と悩んでしまったのです。
元気をなくした専一を先輩の秋山が日本酒居酒屋の『粋酔』(すいすい)へ連れていきます。このお店のマスターは、以前、化学工場で安全担当をしていました。マスターの松浦は当時のことを話します。5年間の安全担当の5年目に新しく赴任してきた工場長が行った安全パトロールのお話しなどです。現場では3つぐらい褒めてから1つ指摘する、実際に不安全行動を見ていなくても、そこでどんな危ないことが行われているかがイメージできていた、といった内容でした。
実はこの安全パトロールのお話しには参考にさせていただいた事例があります。それは、2019年7月に開催された第54回電気関係事業安全セミナーで、日本製鉄株式会社 安全推進部部長 朱宮徹(しゅみやとおる)氏が講演された『対話型安全パトロールによるリスクの抽出』です。
講演の中で朱宮氏は、「不安全行動を予見する」として、*不安全行動を誘発する状況を見つける。不安全行動の痕跡を見つける。 *想像力を駆使し、違和感を大切にする。おかしいと思ったら作業者に聴く。 *不安全行動に結びつく状態を見逃さない。勘違いや間違いをしやすくないか。 *近道行動をしたくならないか。 *危険な作業にならないか。 *リスクはパトロール者が積極的に集めに行く。作業者はリスクを言い出しにくい事情がある。といったことを話されました。
また、「作業者と対話する」として、*まずはあいさつ。隠れてこっそり作業を観察すると作業者からの信頼を失う。 *対話のきっかけは、ねぎらいや、見た目の感想を述べることで糸口をつくる。 *対話は具体的な問いかけから。「はい」で応えられる質問はしない。例えば「何をしているのですか?」「この作業は何ですか?」「これはどうやってやるのですか?」「これは何ですか?」「この作業で一番危ないことは何ですか?」「仕事は楽しいですか?」「職場の安全の取り決め事項を言えますか?」 *当たり前の行動、当たり前の状態こそほめる、ということも話されました。
私も火力発電所に課長、部長、所長といった立場で勤務していた際には、安全衛生協議会が主催して毎月行う安全パトロールに参加していましたが、誰がいくつ指摘するかという「指摘合戦」になりがちでした。実際に無視することができない指摘事項がいくつも出てくるわけですから、それはそれで意味のあることですが、あるべき姿はちょっと違うと思うのです。(つづく)
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