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安全パトロール(その2)


前回に続けて、安全パトロールを話題にしましょう。前回は「あるべき姿はちょっと違うと思う」として、「指摘合戦」の様相を呈する安全パトロールに疑問を投げかけさせていただきましたが、「パトロール」というと、不安全状態や不安全行動など、いわゆるルール違反の「取り締まり」というイメージが先行しがちです。取り締まることでルールを遵守させようという発想です。一般的なパトロールは、作業が行われている現場を順番に回る「巡回」方式で行われます。あらかじめ日時を指定して行う場合は、パトロールで指摘されることを避けるため、事前に整理整頓を行ったり、当日のその時間帯は無難な作業で留めておくようなことが行われたりします。これでは実態が正しく把握できないため、抜き打ちでパトロールを行うこともあるでしょう。

しかし、予告の有無にかかわらず、「巡回」方式の場合は、ひとつの箇所に長時間をかけることができないため、作業のほんの一部しか見ることができません。このため、一定時間あるいはひと通りの作業が終了するまで、同じ箇所で観察する「定点」方式が採られることもあります。「巡回」でも「定点」でも、前回、対話型安全パトロールとして紹介した朱宮氏が述べているとおり、「隠れてこっそり作業を観察すると作業者からの信頼を失う」ことになり、隠れていようがいまいが、「取り締まり」を目的とした監視であれば、実態に迫ることは難しいと考えられます。すなわち、安全パトロールの目的や定義を見直し、「取り締まり」ではないと明確に否定するとともに、その目的を達成するための手法や工夫を取り入れることが必要なのです。

私は、以前勤務していたある発電所で、リスクマネジメントシステム(RḾS)の事務局をしていたとき、RḾSの仕組みとして「現地現物会議」を行っていました。この会議は、発電所長をはじめ、構内に常駐しているグループ会社の所長などの幹部で構成し、厄介な課題を抱えている現場へ全員で行き、現地・現物・現人で課題解決策を検討するものでした。例えば、頻繁に故障して手入れや清掃を行わなければならない設備が対象となりましたが、現物を目の前にしてどのような手入れや清掃を行っているのかを実際に見たり、聞いたりするのです。それまでは「1日に1回清掃をしています」という報告が上がってきていても、それで問題なくその設備が所定の役割を果たしていたら(発電への影響がなければ)「順調」「問題なし」と理解してしまいます。しかし、毎日、何人もの作業員が狭い設備の中に入って2時間もかけて清掃を行っていることを、現地・現物・現人で確認できれば、そのことの重大性を直ちに理解することができます。その重大性とは、いつかその作業のなかで災害が起きるかもしれない、いつか清掃では機能回復できない状態になる(発電への影響が出る)かもしれないといったリスクであり、その作業に伴う費用の大きさだったりします。勿論、このような厄介な設備については、改善要望が出されますが、改善策が速やかに見出せない場合は、問題が先送りされたり、担当←→主任←→副長←→課長という意思決定までのコミュニケーションに時間を要し、改善されないまま放置されて、やがて現状が当たり前になってしまいます。

この現地現物会議は安全パトロールとは別のもので、現地現物会議の対象となる課題は相応の重要性が認められたものですから、現場にはそのほかに潜在している問題や課題がたくさんあり、それを積極的に見つけにいく必要があります。そして、それこそが安全パトロールの目的だと考えられます。

前回のところで朱宮氏が述べていた、「不安全行動を誘発する状況を見つける」「不安全行動に結びつく状態を見逃さない(勘違いや間違いをしやすくないか、近道行動をしたくならないか、危険な作業にならないか)」「リスクはパトロール者が積極的に集めに行く」などです。そして、それらのリスクを有する状態や作業を改善し、作業者が安全に仕事ができる状態をつくり上げることが、パトロールの真の目的であり、そのことを作業者まで含めた全員で共通の認識にしなければなりません。

そのためには、信頼関係が大切であり、コミュニケーションがとれていなければなりませんが、発電所のような電力会社-グループ会社-協力会社という多層構造でメンテナンスが行われている現場で、良好なコミュニケーションを成立させることは、容易ではないことも事実です。

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