8月8日に、午後4時半すぎに発生した九州・日向灘の深さ31キロを震源とするマグニチュード7.1の地震(宮崎県日南市で震度6弱の揺れを観測、宮崎港で50センチの津波を観測など)を受けて、同日、気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて相対的に高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。
マグニチュード7以上の地震が発生した後、7日以内にマグニチュード8以上の地震が発生する頻度は数百回に1回程度だとしたうえで、必ず巨大地震が発生することを伝えるものではありませんが、夏休みやお盆の帰省時期と重なることもあり、大津波の襲来が予想される海岸での遊泳禁止措置や花火大会の中止、東海道新幹線の一部区間での減速運転などがとられています。 この情報が発表される経緯や仕組みについては、すでにさまざまな解説が行われていますのでここでは省略しますが、多くの人(見方によっては一部の人)が地震への備え(家具などの転倒防止、備蓄品など)を再点検し、住んでいるところや帰省先のハザードマップを確認するなどの行動を起こしたようです。一部のスーパーではペットボトル飲料水が品薄になったり、購入制限がかけられたりしました。また、帰省にあたって、車に非常用品を積んで出かけるという行動をされた方も多いようで、今回の情報は防災意識の高まりにつながっています。
発表から本日15日で1週間が経過しますので、本日で巨大地震注意の呼びかけは終了する予定ですが、「なんだ、何も起きなかったね」「対応が過剰だったんじゃない」と考えてしまう風潮が広がったり、その切り口で報道されることが懸念されます。
たしかに、今回発生が高まったとされる南海トラフ地震が起きないことが一番ですが、この地震は必ず発生しますし、発生が先へ延びるほど被害が甚大になる可能性がありますから、今回は防災意識の高まりにとどまらず、ある程度の社会的シミュ―ションが一部実働でできたという点で良い機会になったと思います。
一方で、南海トラフ地震について、どれだけの人がリアルなイメージを描くことができるでしょうか?
東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)では、三陸沖の震央を起点に、岩手県沖から茨城県沖にかけて、震源域に対応する長さ約500キロ、幅約200キロの範囲(約10万平方キロ)に密集して余震が発生しており、約6分間揺れ続いたとされています。
一方、南海トラフ地震の場合、その震源域は最大で東日本大震災の1.4倍程度と想定されており、地震動は東日本大震災では一部地域(宮城県栗原市)で震度7を観測し、宮城、福島、茨城、栃木の4県37市町村で震度6強を観測しましたが、南海トラフ地震では、10県151市町村で震度7、21府県239市町村で震度6が想定されており、揺れ時間も東日本大震災と同等以上と考えられます。
南海トラフ地震では、広範囲にわたって震度7や6強、弱という建物の倒壊を伴う揺れが数分間続き、7m~10mの津波が早いところで2分で到達されると想定されています。建物の倒壊を免れても、大きな揺れが続いている最中に避難することは容易ではありません。
極論すれば、高い津波が襲来する海岸地域では、避難できないまま津波に飲まれる可能性が高いと考えられます。一方で、地震動による揺れや津波の力で建物の倒壊が免れた場合は、2階、3階へ避難することで命が助かる可能性が高まります。
ところが、地震で負傷する人の半数が家具の転倒によるとされながら、転倒防止対策は多くの家庭や職場でまだまだ不十分な状態です。家具が転倒、散乱することで、その下敷きにならなくても、2階以上への避難に大きな障害となるなるわけですから、家具の転倒防止はとても重要な減災対策になります。 今回の臨時情報「巨大地震注意」で多くの方が防災意識を高め、防災・減災対策の再確認、充実に取り組まれたことと思いますが、今回の取り組みに満足することなく、被災イメージをリアルに描いて、一層の充実を図っていくことが大切だと思います。 また、行政もその取り組みをこれまで以上に積極的に(プッシュ型で)推進すべきではないでしょうか?
ちなみに、帰省先、旅行先のハザードマップや避難場所などの防災情報は、各自治体が発表していますので、スマホで確認することができますが、実際に地震が発生した直後はスマホが使えなくなる可能性が高いため、あらかじめ確認してから出かけるようにすべきです。
その点、カーナビにそれらの情報が登録されることで、いざという時に役に立つものと考えられます(自動車による避難を推奨しているわけではありません)。すでにカーナビにそれらの情報が標準装備されていたら良いのですが、まだであればカーナビメーカーさんには是非標準装備に向けて動いていただきたいと思います。
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