冒頭のシミュレーター訓練の場面では、制御盤の上部にズラリと並べられた警報窓の数か所が同時に点灯を始めます。しかし、近年の火力発電所では、制御盤そのものが縮小され、制御卓へ、そしてさらにはデスクトップPCが数台置かれただけのタイプへと簡素化されています。このため、警報窓がズラリと並んだ制御盤は過去のものになりつつあります。
そのような旧タイプの制御盤において、重大な異常が発生した際、数十あるいはそれ以上の警報窓が同時にあるいは次々と点灯する事象を「クリスマスツリー現象」と言います。このような状況では、運転員は混乱し、重要な警報を見落とすことになります。
この現象のネーミングは、1979年に、アメリカペンシルベニア州の「スリーマイル島原子力発電所」で発生した重大トラブルがきっかけとなっています。この事故では、137個の警報窓が点灯し、30秒間に85回の警報が鳴ったとされており、運転員は「パネル板を外して窓の外に放り出したくなった」と証言したそうです。
この事故を踏まえて、制御盤のヒューマン・マシンインターフェースの研究が進み、クリスマスツリー現象のように運転員を混乱させることがないように配慮されるとともに、異常発生時における運転員の状況把握や判断を支援するさまざまなシステムが導入されるようになりました。
さて、私が新入社員だったころの制御盤は、常時監視が基本でしたので「間断なく監視せよ」と教えられていましたが、近年導入された随時監視のシステムでは、運転員は警報が点灯してから状況を把握して、必要な処置を行えばよいようになっています。このため、運転員は常に制御盤の前に座っている必要はなく、監視制御以外にも多様な業務を同時併行で行うことができます。
一方で、常時監視していないのに、異常が発生した時にすぐさま的確な処置ができるのか?という疑問が生じるでしょう。自動化システムが順調な場合には人間は特に何もすることがなく暇を持て余す(boredom)が、突然自動化システムが故障したりすると、高度な判断と操作が人間に求められてパニックに陥ることをボーダム・パニック (Boredom Panic)と言います。自動化システムの制御状況を常に監視し、今どのような状況にあるのかを把握できておれば、異常兆候を捉えることができて、冷静に判断するこができるかもしれませんが、自動化に委ねていると、ボーダム・パニックに陥るリスクが高まります。このため、上記の随時監視システムでは、異常発生時の初期対応は自動化の範囲内とし、運転員は状況を把握してから必要な処置を行えばよいように配慮されています。
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