プレッシャー
- 代表 榎本敬二
- 2022年5月7日
- 読了時間: 4分

「プレッシャー」では、主人公・専一が慕っている元上司の秋本が運転責任者として勤務中にトラブルが発生し、夏の電力需給が逼迫する状況下で発電を継続するか、停止するかの判断を迫られました。責任者席に座る秋本の後ろには、課長が陣取っています。
止めれば、電力不足となって停電を招いてしまうかもしれません。近年の猛暑における停電は、冷房が停止して室内で熱中症を引き起こすことになるかもしれません。寝たきりで介護を要する方は生命にもかかわる問題となります。一方で、発電を継続した結果、設備が損傷してその復旧に長期間と多大な費用を要することになる可能性があります。責任者として、正しい判断をしなければならないというプレッシャーに加え、後ろからは上司が暗黙のプレッシャーをかけてきます。
結局、「あと1時間我慢できれば」という状況で警報値を超え、秋本は「非常停止」を決断しました。
人間にとってプレッシャーは大きなストレスとなります。たとえば、日常的にはさまざまな場面でタイムプレッシャー(時間圧)と対峙しているのではないでしょうか? そのプレッシャーに負けて、近道行為や手順の省略をしてしまったという経験は誰にでもあると思います。上司からのプレッシャーに耐えられず、「忖度」してコンプライアンス違反をしてしまうケースも見受けられます。自分は別の意見を持っているにも関わらず、周囲の大勢が別の意見だから、その意見に「同調」してしまう例もあります。(アッシュの実験参照)これは「同調圧力」に負けたことになります。
では、プレッシャーに対して、私たちはどのように対処したら良いのでしょうか? まずは、プレッシャーに対して自分は強いタイプか、弱いタイプか、その特性を理解しておくことが大切だと考えられます。もしも弱いとしたら、プレッシャーを感じたタイミングで「焦らないで」「落ち着いて」ともう一人の自分から自分に声をかけることが必要です。また、チームで仕事をしているときは、その特性を周囲の仲間が理解しておき、プレッシャーがかかっていると思われるときには、「大丈夫」「ゆっくり」と声をかけてあげることが大切です。
私は、新入社員のころから「思想、手順、歯止め策」というキーワードを繰り返し指導されてきました。思想とは設計思想や理論、理屈のことであり、これに基づいて正しい操作手順を決める。そして、何かが起きた時、人や設備の安全を守るために、最悪の状態に至らせないために歯止めや歯止め策を用意しておけという教えだったと思います。トラブル時の対応手順を定めたシート(故障処理シートと呼んでいました)には、非常停止を判断するための基準が記載されていました。運転制限値がある場合は、その制限値ということになりますが、制限値が規定されていない場合には、どのような状態になったら非常停止するのかが明記してありました。トラブルによっては、シートをそのまま使うことができないケース、シートが用意されていないケースもあります。このようなときには、その時々で「歯止め」としての数値や、歯止め策としての対応方法を決めることになっており、一旦決めた「歯止め(策)」は、安易に緩めないことが原則でした。
このような「歯止め(策)」を明確にしておくことは、厳しいプレッシャー下で正しい判断をするために、とても重要なことだと思います。
さて、この「プレッシャー」の場面では、運転第一課長の鬼怒原が「悪者」として登場していますが、見方を少し変えてみると、必ずしも「悪者」ではありません。鬼怒原は、電力需給が綱渡りの状況で、運転責任者が判断に迷う可能性を考えて、それをサポートするために中央制御室に詰めていたとも考えられます。秋本に対し、「できるだけ粘れ、安易に出力を下げるな」とつぶやいていますが、これは設備を壊しても良いから運転を継続しろと言っているわけではありませんし、人や設備の安全確保を大前提としたうえでの発言です。また、秋本が非常停止を判断したときに「ちょっと待て」と言っていますが、これも「止めるな」と言っているのではなく、「その判断で間違いないかもう一度確認しろ」という趣旨での発言だと理解することもできます。
しかし、この場面では多くの人が「多少の無理をしてでも運転を継続しろ!」とプレッシャーをかけていたと受け止めることと思います。判断をすべき人(ここでは秋本)の周囲に、上司や同僚、あるいはその他利害関係者などがいると、彼らの意思とは関係なくさまざまなプレッシャーをかけてしまう可能性があるので、要注意です。(上司に忖度したり、同僚に恥ずかしいところを見せたくないという思いから頑張りすぎてしまうことがあります)日ごろの言動、前後の文脈、直近の出来事などによって、相手の受け止め方も変化します。
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