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ヒューマンエラー対策(その2)



前回は、人間の脳の情報処理の入力から出力までの各ステップと、それぞれのステップで発生するエラーについてご紹介しましたが、私たち人間はエラーをゼロにすることは不可能だときうことは、皆さんも実感されていると思います。そうであれば、エラー対策には2種類のアプローチがあることは容易に思い至ることと思います。1つ目は、ヒューマンエラーはゼロにはできないが減らすことができるという発想です。このヒューマンエラーを減らす対策のことを「エラー・レジスタント・アプローチ」といいます。レジスタント(Resistant)は、抵抗する、通さないという意味ですが、エラーに抵抗する(させない)対策と考えてください。しかし、エラーをゼロにすることはできませんから、エラーが起きることを前提として、エラーが起きても事故やトラブルに至らせない、あるいは被害を拡大させない対策が必要となります。この2つ目の対策を「エラー・トレラント・アプローチ」といいます。トレラント(Tolerant)は、寛大な、許容する、耐性があるという意味です。

それでは、前回ご紹介した脳の情報処理における「知覚」「記憶」「判断」「行為」という4つの要素について、エラー・レジスタントとエラー・トレラントの2つに分けてエラー対策を考えてみましょう。まずは、エラー・レジスタント・アプローチについてです。

知覚のエラーに対するエラー・レジスタントは、見間違い、聞き間違いを減らす対策ですから、見間違いについては、明るくする、文字を大きく太くする、色分けをする、形状を変えるなどが考えられます。色と形状を併用した例としては、歩行者信号、トイレの男女表示などがあります。なお、色については人によって見え方が異なり、日本では男性の約5%、女性の約0.2%が色弱とされています(色弱は眼の病とされていますが、近年の研究では、人の色覚には多様性があり、多数派が正常で少数派が異常とは言えないと考えられるようになってきました。血液にA型、B型、O型とAB型があるように、色覚にもC型、P型、D型、T型とA型があります)。色弱者の場合、赤と緑の区別が難しいなど、見分けにくい色の組み合わせがありますから、歩行者信号のように形状(図形)と併用した表示をするなどの配慮が必要です。次に、聞き間違いについては、紛らわしい用語を使わない、騒音の低減などが考えられます。発電所では電源設備を点検する際、電源を切ってアースを付けますが、世間一般では「アースを取る」という表現が用いられます。この「取る」はアース線を取り付けるという意味ですが、取り外す際にも「取る」を使うことがあって紛らわしいのです。そもそもこの「取り付け」「取り外し」という用語が紛らわしいため、操作を禁止する札を対象の弁や電源に付けたり外したりする際にもエラーを招く可能性がありますので、「付け」「外し」という用語を使うようにしていました。また、D(ディー)とE(イー)のように聞き分けることが難しいアルファベットについては「フォネスティックコード」といって、A、B、C、D・・・をアルファ、ブラボー、チャーリー、デルタ・・・と読み替える方法を用いる業界もあります。

記憶のエラーに対するエラー・レジスタントは、記憶に頼らない対策ということになりますから、作業手順書やチェックリストの使用が一般的です。

判断のエラーに対するエラー・レジスタントは、容易にあるいは期限までに判断できるようにする、判断を間違えないようにする対策になりますから、まずは時間的な余裕を確保することが必要です。しかし、トラブル処置など時間的な余裕がない状況もありますから、あらかじめトラブル処置マニュアルを用意しておくことが一般的ですし、リスクアセスメントやケーススタディを行って、進行、中止の判断基準を明確にしておく方法もあります。リスクアセスメントを行うことができない場合は、TBḾで同様のことを確認すると良いでしょう。また、「安全第一」はどこの職場でも掲げられている合言葉ですが、掛け声だけでポリシーとして定着していない例も見られます。ですから、判断に迷ったら安全な方を選択するという価値観を共有しておくことも必要です。

行為のエラーに対するエラー・レジスタントは、正しい行為をさせる対策ですから、判断と同様に時間的な余裕を確保することが大切です。安全な環境で不安なくその行為ができる状況を整えること、正しい服装、正しい姿勢でできるようにすることも大切です。そして、行為(操作)の過不足をなくすためには、正しい工具を正しく使うこと、操作完了を確認、判断する手段を明確にしておく必要があります。例えば、バルブを閉める場合、閉め切ったことをどうやって確認するかということです。なお、判断のエラー、行為のエラーをなくす(減らす)ために、チームで対応する方法がよくとられますが、一人だと危ういから二人で、あるいはチームで対応しようと安易に考えることは危険です。物語の中でも紹介しているとおり、「二人作業の落とし穴」というものがありますから要注意です。

次回は、エラー・トレラント・アプローチを話題にしたいと思います。

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