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執筆者の写真代表 榎本敬二

パルウイルス


先日『パルウイルス』(高嶋哲夫著)の文庫本を読みました。この本は昨年3月に単行本が刊行され、今年4月に文庫本が出ました。ネタバレになってしまいますから、内容について詳細をご紹介することはできませんが、表紙の帯には「太古から最凶のウイルスが襲来!」と書かれていますから、この本が扱っているテーマは容易にイメージできると思います。

私は高嶋哲夫さんの小説をこれまでに20冊ほど読んでいますが、2005年に出版された『TSUNAMI』から6年後に東日本大震災が起き、2010年に出版された『首都感染』から9年後に新型コロナが中国・武漢から広がり、やがてパンデミックとなりました。『パルウイルス』(文庫本)の解説を担当した書評家の郷原宏氏は、「新型コロナ以降の新たなパンデミック危機に警鐘を鳴らす近未来小説の力作」と評していますが、この小説は地球温暖化への警鐘にもなっています。

2年以上連続して温度が摂氏0度以下になる地面のことを「永久凍土」といい、永久凍土が存在する領域は北半球陸域の25%程度を占めるそうです。永久凍土の中には大量の有機物が貯蔵されており、地球温暖化によってこれが融解すると、それまで凍結していた有機物が分解されて、メタンや二酸化炭素などの温室効果ガスが大気中に放出されると懸念されています。温暖化を加速させる要因になり得るということでしょう。

一方、永久凍土の中には数多くのウイルスが潜んでおり、2014年には3万年前の永久凍土から巨大ウイルス「ピソウイルス」が発見され、復活させることに成功しているほか、2015年にも「モリウイルス」という別の巨大ウイルスが永久凍土から発見されています。このような例は他にもたくあり、2015年にチベットの氷河から見つかった33種類のウイルスのうち28種類は未知のウイルスだっということです。2016年にはシベリアの永久凍土の中から現れたトナカイの死骸から解き放たれた炭疽菌が、2千頭以上のトナカイに感染し、少年ひとりが亡くなりました。

『パルウイルス』も永久凍土が溶け出すことで太古のマンモスやそのほかの生き物が地表に現れ、そこから未知のウイルスが復活する(このぐらいは紹介しても良いでしょう)というストーリーであり、これが現実化しつつあることを踏まえた警鐘になっています。

拙著『玩プー』は、『パルウイルス』とは比べ物にならない貧弱な作品ですが、新型コロナが終息しつつある今(実際には新たな変異株が見つかっています)、あの時の教訓が忘れ去られ、乗り越えたという達成感から「次も大丈夫」「大したことはないさ」という誤った安心感が醸成されてしまうことへの(小さな)警鐘を鳴らしたつもりです。

人類は、これまでも様々なウイルスと闘い、多くの犠牲を伴いながらも生き延び、今の繁栄を手にしてきました。しかし、近年では必要以上に多くの薬を服用したり、多くの化学物質を体内へ取り込むことなどで、人間が本来持っている免疫力や自然治癒力が低下しつつあることが懸念されています。果たして現代人は太古のウイルスに打ち勝つことができるのでしょうか?

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