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シミュレーター

執筆者の写真: 代表 榎本敬二代表 榎本敬二

この物語は、けたたましく鳴り響く警報音から始まります。火力発電所の運転員である主人公の専一は、すばやく警報に対処する。その行動は迅速かつ的確で、操作は大胆に見えますが、詰めはとても繊細です。

この最初のシーンは、実はシミュレーター訓練です。専一は主制御員の社内ライセンスを取得するために、運転員上級コースの訓練を受けていたのです。

私自身、初級、中級、上級とひと通りの訓練を受けてきました。上級コースは、発電プラントの代表的なトラブル十数項目を訓練します。訓練は数日間にわたり実施され、各項目を順次こなしていきますが、最終日の検定は、どのトラブルが起きるのかは事前に知らされません。このため、トラブルが発生するまではドキドキしますが、何が起きたかがわかれば落ち着いて対応できます。

さて、私は異業種交流安全研究会の活動を通じて、これまでに、航空、鉄道、船舶などのシミュレーターの見学や体験をさせていただきました。どの分野でも、シミュレーターは技能訓練を主目的として導入されていますが、技能習得だけのために用いるのは勿体ない。航空界では、CRM訓練(LOFT)に用いられていますが、鉄道、船舶でも工夫を凝らした使い方がされています。

たとえば、JR東日本の「失敗させて気づかせる訓練」です。使われているシミュレーターは、1997年10月に中央線大月駅で起きた列車衝突事故を教訓として開発された「事故予防型シミュレーター」です。このシミュレーターでは、さまざまな故障や異常事象を模擬することができ、指導員はそれらを工夫して組み合わせることで、ベテラン運転士が思い込みや勘違いをするように仕向けます。そのうえで重大事故に至る事象が仕掛けられ、まんまとその罠にかかって痛烈な失敗を経験することになります。

ベテランになると日々の仕事に不安を感じることがなくなり、自分は大丈夫と漫然とした自信過剰状態に陥ります。その慣れや油断が大事故を起こすリスクにつながるのです。(詳しくは、『現場実務者の安全マネジメント』をご参照ください)

船舶でも川崎汽船研修所では、海運版CRMとも言えるBRM訓練に加えて、「事故事例研修」をシミュレーターを用いて実施しています。この内容については、別途ご紹介させていただきます。

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