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グッドジョブ制度と行動分析学



物語のなかで、主人公の安田専一は、異業種交流安全研究会の勉強会で同研究会の顧問を務める岩橋からレジリエンスエンジニアリングについて学びます。この時、岩橋は「ヒヤリハットは事故の芽じゃない、天使からの贈り物だ」として、ヒヤリハットは事故を未然に防止したグッドジョブだと説明しました。今回は「グッドジョブ!」の取り組みについてご紹介します。グッドジョブ制度は、そのネーミングはそれぞれですが、各産業の様々な企業やその現場で取り組まれてきました。有名な例としては、「奇跡の7分間」と賞賛され、ハーバード・ビジネス・スクールの教材にもなった、新幹線の清掃作業を担うJR東日本テクノハートTESSEIIが挙げられます。「奇跡の7分間」は「新幹線劇場」とも称されますが、その仕掛人となる矢部輝夫氏がJR東日本からこの会社へ移った時には、「プライドを捨ててこの仕事に入った」という現場スタッフがいるほど典型的な3K職場であり、決して評判が良い会社ではありませんでした。そのような状況から、矢部氏はさまざまな仕掛けや仕組みを工夫、導入し、現場スタッフのモチベーションを高め、新幹線の掃除という仕事に誇りを感じてもらうことに成功したのですが、その仕組みの一つが「エンジェルリポート」というグッドジョブ制度でした。勿論、仕組みを入れればすぐに好循環が生まれるというものではなく、矢部氏の熱意に応えてさまざまなアイデアを出して奮闘した現場スタッフたちの努力があってこその成功です。この「エンジェルリポート」は、1チームが20名ほどで動いているチームごとに1人のエンジェルリポーターを指名し、エンジェルリポーターは、仕事をしながら、見たこと聞いたことを会社に報告するというものですが、その際「いいことだけ」報告するというルールが設定されています。また、「いいこと」の基準は設けず、エンジェルリポーターが「いい」と思ったことを報告できるようにすることで、「何が良くて何がダメか」ということで混乱することがないようにしました。矢部氏が目指したのは、「誰かが見てくれている」という気持ちを生み出すことで、それは、「誰かに監視されている」という疑心暗鬼とは全く逆の気持ちだと言います。印象的な報告は抜粋して現場スタッフへ配布することで、「自分のことが書かれている」「あなたのことが書かれているね」という職場内のコミュニケーションも生まれたといいます。

このほか、有名な取り組み事例としては、オリエンタルランド(TDR)の「サンクスカード」「スピリット・アワード」や、ANAの「サンクス・グッドジョブカード」などがありますが、TDRやANAの場合は、TESSEIIのエンジェルリポーターという役割を持った人が報告するのではなく、スタッフが相互に仲間の行いをホメたり、感謝の気持ちを伝えるというものです。

私がかつて受講した研修(社外講師)では、ある失敗ストーリーを読んで、まず登場人物の誰の何がいけなかったのかを抽出するというワークを行いました。受講メンバーが競い合いように指摘し、数多くの問題点を抽出するのですが、次に良い点を抽出するというワークに取り掛かると、ほとんど抽出できないという結果を体験します。実はこの失敗ストーリーは、ヒヤリハットのようなもので、問題は起きましたが最悪の事態は回避できたというもので、ストーリーの中には多くのグッドジョブがあったのです。このように、私たちは問題点を指摘することは得意ですが、仲間の行いの良いところを見つけてホメルということは上手ではありません。私も発電所に勤務しているときに、グッドジョブ制度を導入したことがありますが、ベテラン層になると「そんなことは当たり前」「いつもやっていること」「照れくさいから表に出さないで」という人が多く、グッドジョブがなかなか出てこないという経験をしました。グッドジョブというと、ファインプレイを想像しがちですが、多くの産業事故や災害が「ABC(当たり前のことを、ぼんやりしないで(バカにしないで)、ちゃんとやる」を実績していたら防ぐことができたと考えられますので、ABCの実践も間違いなくグッドジョブなのです。また、ベテランにとっては当たり前のことだっても、それが暗黙知の場合は、新人にとっては当たり前ではありません。同様にベテランだとスムーズにできることも新人だと時間がかかってしまいます。そのような新人が成長し、難なくできるようになれば、それもグッドジョブだと言えるでしょう。TESSEIIの矢部氏が「いいこと」の基準を設けなかったように、グッドジョブに基準を設けることはできないと考えられます。

心理学の中に行動分析学という学問がありますが、これによると人間の行動を決めるのは「強化」「消去」「弱化」の3要素であり、「強化」は、ある行動の直後に良いこと(心地よい思い、苦しみから解放など)がり、その体験が繰り返されたり強烈な場合には、その行動をもっとするようになり、「消去」は、行動の直後に何も変わらいという体験が繰り返されると、その行動を徐々にしなくなり、「弱化」は、行動の直後に嫌なこと(不快感や苦痛、心地よさの消失など)があって、その体験が繰り返されたり強烈な場合には、その行動をしなくなるとされています。グッドジョブを表に出すことで、グッドジョブの具体例を知ることができ、また、それをホメルことで「強化」されれば、やがてグッドジョブが職場の中で拡散していくものと期待できます。

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