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なぜ事故事例から学べないのか

「あそこは以前からときどきトラブルを起こしていたから」「いつかは事故を起こすと思っていた」「でも、ここ(自分たち)は大丈夫」このような言い方で他の職場を批判することはありませんか? さらには、口には出さないまでも「あんなつまらないエラーを起こすなんて」といった具合で見下すことも・・・

私たちは、伝わってくる表面的な事象や事故の直接原因のみを捉えて、事故の当事者たちを非難しがちです。しかし、このような考え方や捉え方では、その事故からは何も学ぶことができません。では、どうしたらよいのでしょうか?

今回は前回の続きとして、3月23日に開催された日本人間工学会の研究会から、文教大学の長谷川尚子先生の講演内容をご紹介したいと思います。


演題は「なぜ事故事例から学べないのか ~学習者の心理に着目して~」です。

私が長谷川さんのお話しを聞いて、まず最初に「やっぱりそうだよね!」と共感したことは、「安全に関する教育・事例学習は、人の安全意識や行動の改善にほとんど役立たない」ということです。(「従来のやり方では」と付け加えておいた方が良いかもしれません)

『現場実務者の安全マネジメント』では、「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」という諺を紹介していますが、事故事例から学びたいという意思がない人に事例をいくら教えても他人事で終わってしまいます。

長谷川さんが現場の実務者を対象に「安全意識や行動の改善につながった経緯」を調べた結果、自分や身近な人、あるいは自分の担当現場で事故やトラブルを経験した場合が約6割を占め、安全に関する教育・事故学習はたった3%でしかありませんでした(ちなみに「指導的立場になった」が約22%ありました)。また、自分の責任が重い、あるいは社内外へ多大な迷惑をかけたと認知するほど、重く受け止め、安全意識や行動の改善につながるようです。自責の念を感じなければ意識、行動の改善にはつながりにくいということです。

一方で、事故情報として周知される内容は、いつ、何が起きたというレベルの情報に限られ、当事者たちがその場面で何を考え(あるいは考えず)、どう判断したのか(あるいは判断しなかったのか)や、その場面に至る前の状況や背景などには触れられていないこと多く、当事者が置かれた状況に自らを置いてみることができません。端的に言えば、他人事ではなく「自分事」(長谷川さんの講演では「わがコト」)として捉えることができるか否かが重要だということです。

他社の失敗事例からの学習は、次の第1段階から第5段階のプロセスを経て新たな行動の実践へとつながるそうです。

第1段階:事故事例の当事者の経験と自身の経験殿重ね合わせ。(似た経験を思い出す)

第2段階:当事者の行動理由の探索。

第3段階:当事者や地震の行動と理想的な行動の識別。

第4段階:新たな行動の選択肢とそれが実施される場面の想像。

第5段階:問題が発生するプロセスの理解。

このプロセスで最初の注意点は、「似た経験を思い出す」ことです。事故事例学習の初期段階で、事故当時者の良くない行動に着目させると、理想の行動との差異ばかりに意識が向き、自責の念につながらない(事故は他人事のまま)のに対し、学習の初期段階で「事故事例と同じ言うな経験を思い出そう」と問いかけると、わがコト意識が持てるようになるそうです。

また、職場でのオープン議論が、事故事例を学習資源として活用しようと思わせる作用があるといいます。職場で成功経験や失敗経験を話す習慣が、学習者の能力向上を促進させ、日ごろの職務の中で「他人の経験は役に立つ」と実感できると、共通性認識(他人の経験と自身の経験の共通点に着目する意識)が自然にできるようになるとのことであり、これが学習する文化の形成につながっていきます。

『命を支える現場力』のなかで、「ハンガーフライト」(かつての航空機のパイロットは、雨でフライトができないとき、ハンガー=格納庫で自らの経験を語り合っていた)の話題を紹介していますが、これは素晴らしい事故事例学習だったわけです。事故事例ではありませんが、火力発電所で国の検査官による立入検査が行われるときの注意点として、「トイレの中で検査に関わる話しをするな」という言い伝えがありました。本当にあったことかどうかもわかりませんが、トイレで検査に関することを(検査官に聞かれたくないこと)を話していたら、個室の中に検査官がいたというお話しで、これが何十年にもわたって語り継がれていたのです。後進へ語り継ぐことという申し送りなど一切ないのですが、なぜか語り継がれていたのです。きっと同じような経験(例えば他人の悪口をトイレの中で聞かれてしまった、聞いてしまった)があったり、容易に想像することができて、わがコトとして認識できていたのだと思います。 さて、長谷川さんの講演からの学びはまだまだありますが、今回の講演と同様の内容が、中央同労災害防止協会が発行する『安全衛生のひろば』3月号に掲載されていますので、詳しくそちらを参照していただきたいと思います。


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