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『まず、ちゃんと聴く』 なぜなぜ分析は不適切?

先日、知人から標題の本をいただきました。ある共通の知人からのおススメということでしたが、最近、集中して本を読むことが少なくなった私は、やや尻込みしながら読み始めました。ちなみに、著者はエール株式会社代表取締役の櫻井将氏で、本の副題は、―コミュニケーションの質が変わる「聴く」と「伝える」の黄金比―となっています。 読み終えるまでに少々日数がかかりましたが、私にとっては、とても学びの多い本でした。それは、私自身が「まず、ちゃんと聴く」ができていないということも理由になりますが、「まずは、ちゃんと聴こうよ」という精神論的なことを説くだけではなく、その手法もしっかりと解説されているからだと思います。

「まず、ちゃんと聴く」が苦手なのは、私だけではないと思います。

部下の話しを聞いているとき、途中で「それで何が言いたいの?」「結論はなに?」といって、話しを中断させてしまったという経験をした人は多いのではないでしょうか? また、部下からの相談に対して、すぐに「それはあなたの考え方が間違っている」とか「それは、こうすべきだ」など、自分の考えが正しいとして判断を下してしまうことも多いと思います。「コーチング」の重要性が注目されるようになって久しいですが、「コーチング」のつもりが、いつのまにか「ティーチング」になってしまっていたというケースが多いのではないでしょうか? 「その場で結論を、少なくとも方向性ぐらいは決めておかないと、スッキリしないし、その方が部下も楽だから」そんな言い訳も聞こえてきそうです。

また、経営幹部との座談会と称して、現場の意見(声)を聴く場が持たれることがありますが、いつの間にか、「現場の意見を聴く」から「経営幹部の考えを伝える」になっていたり、経営幹部の成功体験を説く場になってしまうことがあります。私自身、現場の立場だったころには、こちらが1分話すと幹部が5分も話すというような経験を何度もしました。

勿論、「伝える」が必要なときもあります。この本の副題に「聴く」と「伝える」の黄金比と記載されているとおり、「伝える」も重要なのです。

この本の詳細をここで紹介するとネタバレになって著作権上の問題が生じそうですので、関心のある方は、あるいは「自分はいつも部下の話しを聴いている」と自負されている方も、是非一度この本を読んでいただきたいと思います。(この本、1回読むことである程度の知識は得られますが、実際にはその知識で実践することは容易ではありませんので、学んだことを実際に試しながら、何度も読み返すことが必要です)


さて、この本からの学びや気づきは多々ありますが、その中に「質問の中ですぐに使える非常に効果的な言い回しとして、「なぜ」ではなく「なに」を使う」というものがあります。

相手の話しを聴くとき、私たちは「なぜ」と質問することが多いと思います。『なぜなぜ分析』はまさしく「なぜ」を4回、5回とくり返して真因にたどり着こうとします。

しかし、この本によると、聴く側には相手を責めるつもりはまったくなくても、「なぜ」と聞かれると少し責められている感じを受けることがあると指摘しています。また、「なぜ」と問われた相手は「正しい答えを言わなければ」とか「この人が納得する答えを言わないと」と感じやすいそうです。

言われてみれば、たしかにその通りです。「なぜ」という問い方は「あなたは、なぜ、そうしたのか(思ったのか)」と聞いているのであり、主語は「あなた」になっています。結局、あなたの見方、捉え方、考え方、判断を追求していることになり、ついつい追及になりがちです。

ヒューマンエラーによる事故などのトラブルの要因分析を行う際、「ヒューマンエラーは原因でなく、ヒューマンエラーは引き起こされるものだ」というヒューマンファクターズの基本を踏まえつつも、そこに「なぜなぜ分析」を適用すると、ついつい追及色が濃くなってしまいます。 櫻井氏も、「仕事を進める上では「なぜ」という問い方が大事だ。事実を確認する上では、なぜを繰り返して真因を特定したい」と述べていますので、「なぜなぜ分析」を否定されているわけではありません。しかし、櫻井氏は「人の内面(思考・感情・価値観など)を扱う時には「なぜ」という疑問詞を「なに」に置き換えてみることおすすめしたい」と示唆されており、ヒューマンエラーに関わる要因分析は、まさしく人の内面を掘り下げていくことになりますから、「なぜなぜ分析」ではなく「なになに分析」にした方が良いわけです。

「なぜ」を「なに」に置き換えるということは、主語はあなたではなく「何が」になります。「あなたは、なぜそう判断したのか?」「あなたは、なぜ気が付かなかったのか?」ではなく、「何が、あなたにそう判断させたのか?」「あなたが気づけないようにしたのは何か?→あなたの注意を別に向けさせたのか?」という問いかけ方になります。

「なぜなぜ分析」は、トヨタ生産方式などにおいて、必然性や真因を追求する際に用いられる手法ですが、この場合は、人の内面を扱うことが少なく、この仕事はなぜ行う必要があるのか?や、この部品が不良となったのはなぜか?を掘り下げていきます。

しかし、上記のとおり、人の内面を扱うヒューマンファクターズの分析に際しては、「なぜなぜ分析」ではなく、「なになに分析」なんだと強く意識してインタビューを行った方が良いかもしれません。

 
 
 

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